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◯転売の話1 -2

 結局、僕らが解散したのは終電間際でした。地下鉄で帰ると言う彼を見送り、僕はJRのくだりの電車に乗り込みます。珍しく車内は空いていて、僕は横並びの席の一つに腰を下ろしました。スマホを取り出すと、ついさっきまで彼に見せていたメルカリの画面が表示されます。 


 「呪具」のカテゴリの写真がホーム画面に出てきます。スクロールすると「曰く付き」「呪物」「呪い」と、次から次におどろおどろしいカテゴリが表示されました。僕のアルゴリズムは今や禍々しい物に最適化されてしまったようです。電車の扉が閉まります。ゆっくりと車体が動き出しました。


「見るだけなら問題ないですよ」

 スマホを返しながら後輩はそう言っていました。酔っていたせいもあったんだと思います。電車に揺られながら、僕はメルカリにオススメされている「呪物」たちを一つずつ見ることにしました。


 オススメ商品の中には【本家】の出品物もありました。奇妙なカメラアングルで撮影された写真が4枚、そして商品説明には「えんぎものです。しあわせをまねきます。はこをつけますので、もちはこぶのにもべんりです」と書かれています。つまり半年前に見た時と同じです。


 【本家】以外のアカウントから出品されている「呪物」は、【本家】よりも分かりやすく撮影され、説明文も詳しく書かれていました。たとえば雛人形の三人官女。説明文にはこうあります。 


――夜中、ボソボソと囁くような声や楽しそうな笑い声がします。近寄ると何かが落ちたり割れたりするので、話を聞かれたくないようです。いまのところ実害はありません


 他には日本兵の人形。 


――祖母から受け取ったものです。旦那が気味悪がって押し入れにしまった途端、体調を崩しました。元の位置に戻したら治りました


 また赤ん坊のおしゃぶりという変わり種もありました。 


――子供の霊が宿っていると言われました。気づくと置いてある場所が変わっています。ちかくに飴を備えたら無くなりました


 そして大抵のアカウントは「購入したことによる不利益は請負かねます」と最後に明記していました。どうやら曰く付きの商品を販売する時のテンプレートのようです。 


 その中に、顔に大きくバッテンの書かれたこけしの人形がありました。半年前、【本家】が出品していた商品です。しかし、出品しているのは別のアカウントで、アカウント主は「もやき」となっています。【本家】のアカウントを見るとこけしの人形は売り切れとなっていました。加えて、【本家】で販売されていた時は500円だったのですが、「もやき」のアカウントでは20000円近くの値がついていました。



 どうやら、もやき氏は【本家】から商品を仕入れ、より高額の値段で販売をしているようです。こけし以外にも【本家】から仕入れたと思われる商品がもやき氏の出品物にはいくつもあり、中には買い手がついているものもありました。昨今、限定品やコンサートチケットなどで転売問題を耳にしたりしますが、曰く付きの商品でしかも同じサイト内でおこなうとは。どこにもこういう人はいるだな、と僕は感心しました。 

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