久しぶりにメルカリにログインしました。人形劇の人形を探していた時から半年近くが経っていました。きっかけは4月になり僕の部署に新しい職員が入ってきたことです。20代後半の、背の高い爽やかな男性でした。 僕の直属の部下になるということもあり、その日のうちに彼を誘って飲みにいくことにしました。
行きつけの居酒屋のカウンター席に座り、しばらくは他愛のない話をしていました。この店のシメサバは美味いとか、彼が以前していた仕事のこととか、互いにキャンプ好きだとわかったのでその話とか。あとは、今の職場で起きたちょっとした事件とか。とはいえしがない市役所職員です。そこまで大掛かりな事が起きるわけではありません。せいぜい、「集積所に集められたゴミ袋が毎回のように荒らされていて、誰もがカラスのせいだと思っていたんだけど実は……」みたいな話を、酒の勢いを借りてウダウダと話すくらいでした。
店に入って3時間がすぎた頃でしょうか。話題も尽きかけ、そろそろ出ようかと僕が言いかけたタイミングで、彼がポロッとこぼしました。
「実は僕、怪談とか好きなんですよ」
意外でした。彼の言動は明るい好青年といった感じで、オカルトやホラーの類は似つかわしくないように思えたんです。ただ、詳しく聞いてみると、怪談師を呼んで自らイベントを打ったり、仕入れた話を披露する側に回ったりと、けっこうな熱量で活動しているようでした。
「あ、お金はもらってないですよ。公務員なので」
先回りして彼は弁明します。そしてこう続けました。
「先輩、なにかその手の話って持ってたりしません?」
そこで僕は、去年末に経験したメルカリの話をすることにしました。だいぶ酒もまわっており、さらには半年も前の出来事を思い出しながらだったのですが、それでも彼は熱心に耳を傾けてくれました。
「……面白いですねぇ」
最後まで聞き終えた彼が言います。
「そのアカウント、見れたりしませんか?」
僕はスマホを取り出し、【本家】のアカウントを彼に見せます。メルカリのホーム画面には、やはり「呪具」のカテゴリが表示されていました。
「いろいろ見ちゃって良いですか?」
彼は僕に断りを入れたあと、【本家】のプロフィールや出品物、そしてその説明文や購入希望者とのやりとりに目を通しました。
「どう思う? ここに出されてるの、やっぱヤバいやつかな?」
「うーん」
彼は唸りました。
「確かなことは言えません。ただ」
そして、【本家】と書かれたアカウント名を指し示します。
「まるで、がんばって人間のふりをしているみたいですよね」