ブログ「サカイのキカイな世界の歩き方」で語られている通り、確かに24年前、埼玉県吉川市で一軒家が全焼し、そこに住んでいた家族4人が亡くなる事件はありました。ただし、ニュースには能面についての記述は無く、当ブログ以外で能面について触れている媒体はありませんでした。
また、「サカイのキカイな世界の歩き方」では過去に起きたいくつもの事件、事故を取り上げ、それらすべての原因を呪いや呪具にあると主張していました。これらは全て、「埼玉県吉川市の事件について語るスレ」の指摘と一致しています。一通り、ブログ記事に目を通してみましたが中には言いがかりに近い主張も散見されました。
そして、もしブログ主の発言が本当だった場合、つまりは【本家】が出品していた能面が本当に呪具で火事などの災いを引き起こすようなものだった場合、明確に不自然な点が出てきます。
【本家】のアカウントに軒並み高評価が付けられているんです。
前述した通り、【本家】のアカウントの評価は星4・9。まごうことなき優良アカウントです。言い換えるなら、ほとんどの購入者がこの取引に満足しているということになります。【本家】が出品している物の説明文には「えんぎものです」とあります。それから「しあわせをまねきます」ともあります。幸せを招くと思って購入したのに、買った途端、事件や事故に巻き込まれたとしたら、高評価をつけることはないでしょう。
では、やはりブログ主は妄想に駆られているだけなのか。 いえ、僕の考えは違います。むしろこれだけ高評価が集まっているという事実、そして【本家】の商品ページのある一文が呪具である可能性を示唆していると思っています。商品説明ページにはこうあります。「はこをつけますので、もちはこぶのにもべんりです」
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本家は「購入者が出品物を運ぶ」という前提で売りに出しています。ではどこに運ぶのか?
学生時代、塾講師のアルバイトをしていた時にあるベテランの先生が言っていました。「偏差値を上げたいと思った時、普通の子供は勉強しますよね? でも、たまにこう考える生徒もいるんですよ。じゃあ、他の子の足を引っ張ってやろうって」
【本家】から商品を買った人たちも同じではないでしょうか? 彼らは他の人間に送りつけるために呪具を買っているんです。 他人を邪魔すれば偏差値が上がると考える生徒のように、彼らは不幸になった他人を見ることで相対的に自分が幸せになっていると考える、いや、相対的なんて言葉を使わなくても、もっとシンプルに説明できるかもしれません。嫌いで嫌いでしょうがないあいつに呪具を送りつけ、不幸にさせようとしているんです。
【本家】のアカウントには購入済みのユーザーからのコメントもたくさん届いています。
――「ありがとうございます。毎日が幸せです」
――「本当に効果がありました」
――「鬱々とした日々だったのですが、スッキリしました」
スッキリしました、という一文。これって、そういう意味だとは思いませんか?
結局、クリスマスに行う人形劇の人形はアマゾンで購入しました。上司にはフリマサイトを探してみたがなかなか良さそうなのがなかったと伝え、納得してもらいました。やっぱり便利ですね。翌日には段ボール箱に入って必要な人形が届きました。
クリスマス会は無事に終わりました。少し気が緩んだこともあってか、妻に【本家】のアカウントや商品ページを見せ、僕の推理を聞かせてみることにしました。「考えすぎだよ」。彼女はそう言って笑い、スマホを僕に返しました。確かに妻の言うとおりです。明確な証拠もないですし、憶測に憶測を重ねただけですので。
妻から受け取ったスマホに目を落とします。メルカリのホーム画面が表示されていました。そこには「呪具」と書かれたカテゴリが並んでいます。
メルカリというサービスは、直前に見た商品と同じカテゴリの商品をオススメしてくる、そんなアルゴリズムになっています。
(つづく)