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◯とあるラジオの会話を抜粋したもの

 えー、そんなことあるんですか! あ、それで言うと、私、似たような話ありますよ。あ、けっこう長くなるけど良いですか? 大丈夫そうです? わかりました。私、少し前に仲良くなった子がいるんですけど、その子、えっとじゃあ、A子ちゃんって呼びましょうか。そのA子ちゃんって子、一時期、手芸にハマってたらしくて、その材料をメルカリで買ってたんですって。押水さん、使ったことあります? ……あら意外! あ、で、A子ちゃんが使っている材料、私も詳しくはわからないんですけど、スーパーとか百均とかでなかなか売ってない材料みたいで、ただ、メルカリで見つけたあるアカウントが、その材料をすごいたくさん出品してたらしくて、だからA子ちゃん、もっぱらそのアカウントと取引してたんですって。


 彼女ね、最初はご年配の方だと思ってたそうです。そうそう、取引相手の年齢。そもそも手芸って平均年齢高いし、なにより、取引する時のメッセージが機械に慣れてない感じだったらしくて。例えば、「ごこう にゅうありがとうございま す」とか「はっそうし ました」みたいに、文字は全部ひらがなで、たまに妙なスペースが文中に入ってたそうです。でも文章の中身は丁寧だし、取引の最後は「またおねがいしま すね」って送ってくるようなマメな相手だったから、田舎町に住んでいるご婦人なんじゃないかって。そう思っていたそうです。


 A子ちゃん、悪い子じゃないんですけど、ちょっと能天気っていうか無遠慮な部分もあったりする人で、次第に少し無理なお願いをするようになったそうです。まとめて買うから値下げしてくれないかと提案してみたり、他の人に買われないよう、「A子さん専用」と商品ページに注釈してくれませんかと頼んでみたり。あ、なんかそういう文化がメルカリにはあるんですよ。 こういったオーダーにも相手は快く応じてくれたとA子ちゃんは言ってます。で、ここからなんですけど、A子ちゃんが取引を重ねていくうちに彼女はあることに気づいたそうです。欲しい材料が先読みで出されてる。あるぬいぐるみを作ろうと思う、必要な材料をメルカリで調べる、するとそれがすでに「A子さん専用」と書かれて出品されている。そんなことが何度も続いたそうです。怖いですよね? ただA子ちゃん、その時はありがたいなーくらいにしか思ってなかったそうです。能天気でしょ?


 さらにしばらくして、A子ちゃん、当時付き合ってた彼氏さんと山梨に旅行にいったんです。そこでふと、いつも取引している相手の住所も山梨だと思い出しました。あ、そうなんですよ。メルカリって相手の住所わかるんですよ。A子ちゃん、立ち寄ってみることにしたそうです。ただ、この時点で会うつもりとかは別になくて、ただどんなところに住んでいるのか、興味本位で見ようとしただけだったらしいです。


 1時間くらい車を走らせるとだいぶ近いところまで来たみたいで、マップが示している先が、車じゃ通れない細い路地の先だったからA子ちゃんだけ降りました。石畳の上をひとりで歩いて、苔の生えたブロック塀の間を通り抜けて、するとパッと視界が開けたそうです。あったのは小さな神社でした。申し訳程度の真っ赤な鳥居と、ボロボロの賽銭箱があるだけの簡素な神社。手入れはされておらず、雑草がそこかしこに生えていたそうです。当然、人が住めるような場所ではありませんから、A子ちゃん、住所を間違えたんだと思って引き返そうとしたそうです。するとね。「またおねがいしますね」 背後からそう聞こえたんですって。

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