「お兄ちゃんは会社帰り?」
「ああ、おまえは?」
「私も同じ。友達のオススメの店に、これから行くところなんだけど……」
まっつーに嫌なことをした綾瀬川を友達と言わなきゃならないのが、本当につらい。
「本当に友達なのか?」
「へっ?」
「おまえが前に言ってた理想の男が、そこにいるもんだから」
お兄ちゃんが指を差したのは綾瀬川。私がゲッと思いながら綾瀬川の顔を見たら、愛想笑いを浮かべてわざわざ私に目を合わせる。
(付き合うなら私よりも背が高くて、イケメンで強い男がいいと、お兄ちゃんに言ってしまったことを、いまさら悔やんでも悔やみきれない!)
「お兄さん、申し訳ありません。僕は斎藤さんの友人のひとりなんです」
「それじゃあ後ろにいる彼は?」
お兄ちゃんが訊ねたことで、安心して紹介できると思った。
「会社の同期で――」
「斎藤さんとこれからお付き合いするかもしれない、加藤さんです!」
いきなり私の話をぶった切り、爆弾発言した綾瀬川に怒りを覚える。
「なに言ってんのよ。勝手に彼氏にされる、加藤がかわいそうじゃない!」
「かわいそうと言ってますが、加藤さん本人はそんなこと微塵にも思っていませんよ」
含み笑いをしながら綾瀬川が加藤を見るので、つられるように彼を見たのだけれど、真っ赤になってる顔を俯いて隠している様子に、呆然とするしかない。
「お兄さん、斎藤さんの理想と違う彼ですが、とても優しくて頼りになる方なんです」
なぜか綾瀬川がお兄ちゃんに、加藤の人柄の説明をしはじめる。
「加藤さんは薫よりも強いのか?」
「えっ? それは――」
「さっき彼らのやり取りを見ていましたが、腕力は斎藤さんが上ですけど、会話においては加藤さんが一枚上手と言ったところでした」
私が言い淀むとそれをフォローするように、綾瀬川が言の葉を紡ぐ。
(いったい、なんだっていうんだろ。綾瀬川はさっきから、加藤のことを持ちあげるし――)
呆れ果てていたそのときだった。俯いていた加藤が赤ら顔を晒すように頭をしっかり上げて、お兄ちゃんを見つめたあと、90度に腰を曲げた。
「お兄さんの目から見て、綾瀬川さんよりも頼りない男に見えるかもしれませんが、彼女を想う気持ちは誰にも負けません!」
私たちの傍を通りがかった人が振り返る大きな声に、挙動不審なくらいに周りを見渡してしまった。
「斎藤さん、加藤さんが告白したけど、どうするんですか?」
「薫、加藤さんと付き合うのか?」