綾瀬川が見立てた洋服を着た私は、その後デパートの化粧品コーナーに連れられ、着ている服に似合うメイクを施された。濃い化粧をされていないのに、アイメイクひとつ違うだけで、目元が華やかになり別人の顔になっていく。
「斎藤さん、もとの顔はそこまで悪くないのに、日頃適当にメイクしているんだろうなって思ったから、今回はいろいろいい機会になったでしょうね」
「いい機会って、私にこんなことをしても、まっつーにしたことについては、許していないんだからね!」
化粧が終わり、ふたたびどこかに向かって移動した。綾瀬川がだらだら喋るせいで、さっきから話題が尽きない。言い合う私たちのちょっとだけ後ろに加藤がいて、黙ったままついてきていた。
「加藤さんはどう思います? 斎藤さん、こんな感じで出勤していたら、社内でモテていると僕は思うんですが」
「確かにいつもより雰囲気が柔らかいから、近づきやすいとは思うけど、相変わらず隙がなさすぎて、モテるかと訊ねられても難しいとしか言えないかなぁ」
「加藤なにげに、私をディスってるんじゃないわよ!」
「俺は事実を言ったまでだって。怒ると皺が増えるぞ」
「本当におふたりは仲がいいですねぇ。同期だからじゃなく、なんだかいろいろありそうな感じに見えます」
意味ありげに見下ろされる綾瀬川の視線に、チッと舌打ちしながら言い放つ。
「いろいろあったら、とっくに付き合ってると思うけど?」
「だそうですよ、加藤さん。既成事実を作らなきゃはじまりませんって」
「ちょっと、なに加藤を焚きつけてんの。私が独り身だからって、憐れんでそんなこと言わないでよ」
イラっとした感情が声になって表れる。綾瀬川が私の神経を逆なでするようなことばかり、さっきから言うせいだろうな。
「薫じゃないか!」
いきなり、すれ違いかけた人物に声をかけられた。見上げるとそこにいたのは、今一番逢いたくない人だった。
「お兄ちゃん……」
「おまえ、男をふたりも引き連れて、どこに行こうとしてるんだ? しかも、いつもと雰囲気が変わってる。すっごいかわいい」
行先を言えるわけない。だって私は綾瀬川について行ってる身。しかも護衛に加藤を従えているという複雑な事情を、シスコンの兄に言ったら、どうなるであろうか。