「どーしてアンタに、洋服を恵んでもらわなきゃならないの?」
「これから行くところが、お洒落なバーだからに決まってるじゃないですか」
「だからなんでアンタなんかと、サシで飲まなきゃならないのよ?」
「加藤さんがいるんですから、サシじゃないでしょう?」
正直、身長の高さのせいで、今までは限られたものの中から洋服をチョイスしていた。でも綾瀬川が連れてきてくれた店は、そんなことを気にせずに(もちろん値段は高いので、買うことができないけどね!)あれこれ選ぶことができるので、嬉しくて仕方ない。
だけどその喜びを悟られたら負けだと思い、自分なりに抵抗している最中だったりする。
「斎藤さん、モデル並みの身長なのに、やぼったいその服はもったいないですよ。加藤さん、そう思いません?」
綾瀬川がトップスを数点手に取りながら加藤に訊ねると、値札をチラ見していた手が、ビクッと痙攣する。
「え? あ、うー。普段着ているものは、そこまで変じゃないと思いますが」
綾瀬川のセリフを否定する返事に、思わず加藤の顔を見つめてしまった。男っ気のない自分を加藤が日々見ていたことに、ちょっとだけ意識してしまう。
「だったら、加藤さんに選んでもらいます?」
嫌なしたり笑いで私に流し目する綾瀬川に黙ったまま、しかめっ面を見せつけてやった。
「俺はあんまりセンスがないので、綾瀬川さんが選んでください。元モデルの目で選んだほうが、斎藤がよく見えるでしょうし」
「よく見えるよりも、綺麗に仕上げてあげます。斎藤さん、ちょっとこれを持って試着室で着替えてみてください」
持っていた洋服の中から何点かピックアップしたものを、強引に手渡されてしまった。普段着ないようなビビットな色使いに、思わずたじろいでいると。
「斎藤の肌が映えそうな色を選んでると思う。大丈夫、試着してみるといいって」
笑顔で加藤に言われたおかげで、すんなり試着室へと足が動く。あえて値札を見ないで、お洒落な洋服に身を包んだのだった。