その視線に恐れおののいたのか、加藤さん腰を曲げたまま、困った表情を浮かべた。
「ちょっと加藤、そういう大事なことは、まず私に言うべきじゃないの?」
斎藤さんの言葉に同意を示したかったが、我慢して事の成り行きを見守る。
「言いたかったけど、今まで勇気が出せなくて言えなかった。でもこのタイミングを逃したら、この先ずっと言えないと思ったんだ。それで勝手に口を突いて出てしまったというか……」
加藤さんは恐るおそる頭をあげて、あからさまにしょんぼりしながら斎藤さんを眺めた。
「加藤――」
あまりにも悲しげな表情の加藤さんに声をかけたタイミングで、なにかを吹っ切るように頭を振ったあと、熱のこもったまなざしを斎藤さんに送る。その雰囲気に、僕は頑張れの念を込めて、ふたりを見つめた。
「強い斎藤を守れるように、これから頑張って努力する。お兄さんにも認められるくらい頑張るから、俺を意識してほしい!」
男らしいセリフで彼女に告白した加藤さんを後押しせねばと、負けじと僕も会話に参戦する。
「お兄さん、これはもう妹さんを解放しなければならない時期にきたんだと思います。どうでしょう、加藤さんも努力するって言ってますし、お試し期間を設けてお付き合いをさせてみては」
「なるほど。お試し期間を設けて、薫と付き合ってもらうか。それはいいアイデアかもしれないな」
斎藤さんの口から付き合うの言葉が一切出てこない状況化だったが、お兄さんの了承を得た以上、ふたりが離れられなくなったのは良かったと思う。あとは既成事実を作って、交際に発展させるように僕が施すだけだった。