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恋の誘導尋問~恋に不器用なアイツから僕は彼女を略奪する~ 綾瀬川澄司編12

☆☆☆


 石川さんと和やかに話し合いを終えた笑美さんは、どこか疲れた様子に見えた。


「笑美さん、気分は大丈夫ですか?」


「気分っ? 澄司さんみたいにどこか怪我をしているわけじゃないし、元気ですので、そろそろお暇したいかも……」


 傍にいる僕から離れようと考えたのか、こっそり腰をあげて距離を遠くされてしまった。移動したことは、ベッドが軋んだのですぐにわかったものの、わざわざそれを指摘して怯えさせるのも得策じゃない。


 離れていくなら、離れられないような状況を作り出せばいいだけのこと。心優しい笑美さんは、自分のせいで怪我をしている僕に気を遣っている。そこをうまいことくすぐればいい。


「目に見える傷は、絆創膏や包帯をして治すことができるものですけど、あんなふうに元彼さんに襲われたせいで、心にキズがついてると思うんです。僕が思っているよりも深く」


 笑美さんの同情を買うように、なにもない空間を見ながら泣いてみせた。泣くのは、子どもの頃から得意。僕に言うことをきかせようとする、大人から身を守る手段のひとつだった。


「澄司さんこそ、大丈夫じゃないですよね。もしかして傷が痛んでいるとか」


「僕、昔から泣き虫で、すみません。笑美さんの前だと、カッコ悪いところばかり見せてしまう。嫌いになったでしょ?」


「好きか嫌いかで判定するなら、えっと嫌いじゃないとしか言えないみたいな」


(嫌いじゃないか――いい濁し方だと褒めてあげたいくらいだね)


「僕ね会社では、名前で呼ばれたことがないんです。男性社員はそろって『七光り』って呼ぶんですよ。上司も先輩も同期も……。普通ならありえないですよね」


「澄司さんの心にも傷がついてるから、私を気遣うことができるんですね」


「優しいな、笑美さんは」


「そんなことないです……。アハハ」


 愛想笑いで僕を慰めようとする笑美さんが、可愛くて仕方ない。


「七光りと呼ばれるんだから、正々堂々とそれを使ってやれと思って、仕事に活かして結果を出してるんですけどね。今度はその結果が良くても悪くても、ひがまれるということに繋がっちゃって」


 僕のリアルを複雑な気持ちで聞いている笑美さんは、さらにあたふたしまくる。


「ちょうど仕事のやる気が失せかけていたときに、笑美さんと出逢ったんです」


「そ、そうだったんですね」


 笑美さんの顔をしっかり見るために涙を拭い、首を動かして振り返った。僕を心配そうに見つめるまなざしに、胸が熱くなっていく。手を出したくて堪らない。


「最初は笑美さんのこと、どこにでもいる女のコっていう認識だったんですけど、ひたむきに仕事をしている姿や、僕を御曹司扱いせずに、綾瀬川澄司個人として叱ってくれることとか、すごく嬉しかった」


「だって澄司さん言ったじゃないですか。友だちとして一緒に頑張りましょうって。私はその言葉に忠実に従っただけ。友だちを特別扱いなんてしませんから」


 友だちという言葉を繰り返しても、僕の心にはまったく響かない。なぜなら僕の中では、笑美さんはすでに恋人になっているから。佐々木さんを振って、僕を選んだ設定になっているんだよ。


「僕を普通に扱ってくれる、笑美さんが大好きです。左耳の裏にあるホクロや腰骨の傍にあったピンク色の星型の痣も、全部が愛おしい」


「な、なんで痣……痣のことを知っているんですか」


 頬を染めながら僕を睨むその顔、すっごくそそられる。


「あまりにも可愛い形をした痣だったので、キスしながら舐めてしまったんです。ちょうど睡眠薬が切れかけていたせいか、笑美さんの口から甘い吐息が漏れましてね。感じるたびに、痣の色が濃く浮かび上がってきました」


 怯えた笑美さんが逃げる前に素早く左手首を掴み、隠し持っていた手錠を嵌める。手錠と言っても金属製でできているが、手首にキズが付かないようにスポンジ状のものが巻かれた特注品だった。


 しっかり手錠をされたというのに、笑美さんがベッドから逃げようとしてジタバタする。


「やっぱりこうでなくっちゃ。もっと抵抗してください。じゃないと反対の手にも、手錠をかけちゃいますよ」


「いやっ、やめて!!」


 笑美さんは覆いかぶさった僕の体を、あいた手で必死になって引き離そうとした。瞳に涙を浮かべながら力技で抵抗するそれに、僕のボルテージがどんどんあがっていく。


 手錠を嵌めた左腕を引っ張って、ベッドの柱に無理やり固定した。それでも抵抗を続ける笑美さんの左腕から、ガチャガチャという無機質な音が鳴る。


「澄司さん、こんなの間違ってる。嫌いになるから!」


「嫌いな男に感じさせられることを、今から考えてみてください。笑美さんが嫌がっても、カラダはどんどん快感に沈んでいくんです。嫌だと言えば言うほどに――」


 左腕を上げたままの笑美さんに跨り、舌なめずりしながら、パジャマのボタンをゆっくり外した。パジャマの上は手錠を嵌めているせいで脱がせることができないが、下は暴れてもスルッと脱がせることができる。

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