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日ごろの鍛錬の成果なのか、僕の負った傷はどれも浅いものだった。笑美さんは倒れた衝撃で頭を軽く打ってはいたが、問題ないと診断されたので、会社に登録している自宅じゃなく、実家に彼女を連れ帰る。
笑美さんと連絡がとれなくなった佐々木さんが探すのを見越して、あえて実家に連れ帰ったものの、どこに彼女を閉じ込めようか迷ってしまう。
「澄司、いろいろ大変だったな。松尾さんは大丈夫なのか?」
笑美さんを横抱きにして車から降ろすと、父が慌てた様子で屋敷から飛び出してきた。
「はい。笑美さんに怪我はありません。暴漢に襲われたショックで、精神的に参っているようだったので、お医者様が鎮痛剤を打ってくれました。それでぐっすり眠っている次第です」
本当は僕が持っていた睡眠薬をさっき口移しで飲んで、深く眠ってもらっているんだけどね――。
「可哀そうに。ちょうどゲストルームが空いているから、そこを使ってもらいなさい。部屋に浴室もついているし、自分の家のように過ごしてしばらく休んだら、気持ちも安らぐだろう」
「ありがとうございます。笑美さんのことについては、僕から千田課長に連絡しておきます」
こうして大手を振って、笑美さんを実家に招き入れることに成功した。