「ただいま~……」
仕事が定時で終わり、知り合いに頼まれた合コンに渋々出席した。仕事の付き合い上、どうしても断れなかったため、疲れた体を押して顔を出したのだが――。
僕は客寄せパンダということを、主催者から事前にお願いされていたせいで、群がってくる女のコたちを無下に扱うわけにもいかず、優しく笑顔で接しながら適当にあしらい、一次会でさっさと切り上げて帰ってきた。
「
リビングでテレビを見ながら、楽しそうにくつろいでいるっぽいお父さんに呼ばれたので、傍にある一人がけ用のソファに仕方なく腰かける。
「なに? 仕事の話? それとも特定の彼女を作れって話?」
最近顔を突き合わせるとなされる話題を、先に口にしてやった。すでに耳タコ状態である。
「彼女をとっかえひっかえしてるついでに、逢ってほしいコがいるんだ」
(次の仕事に繋げるために、女のコたちと遊んでいるというのに、この言われ方はなんだろうな。まったく……)
「逢うだけなら、別にかまわないけど。ちなみにお父さんの趣味と僕の趣味が違うことくらい、わかってるでしょ」
「相手は松尾笑美さん、おまえよりも年はひとつ上で、彼氏がいる」
しれっとした顔で告げたお父さんのセリフに、うんと嫌そうな表情を見せつけた。
「は? なに言ってるの。もしかして取引先で、また無茶ぶりしたんでしょ。プライベートと仕事を絡めるなんて、マジでありえない!」
かくいう僕も、仕事のために女のコたちをとっかえひっかえしてるので、あまり強く言えなかった。
「略奪するくらいの気持ちがなけりゃ、これから先なにかあっても挫けて、うまく乗り越えられないだろうな」
「それって、どっかのイケメンからお母さんを奪った話でしょ。僕にも同じことをさせようとするとか、信じられないんだけど」
この人のことだ、金品チラつかせて、うまいことお母さんをたらしこんだに違いない。
「清楚で可愛らしい娘さんだ。お茶を淹れるのが美味くてな。ひとめで気に入った」
「お茶なんて、誰でも美味しく淹れることができるものなのに?」
ひょいと肩を竦めながら指摘してやると、お父さんは目をむいて不機嫌を露にした。
「味音痴のおまえにはわからない、味わい深い旨みと真心があるんだ。明後日一緒に、取引先に行く手筈になってるからな」
「わかったよ。その取引先とやらに行くけど、略奪なんてしたことないから、失敗するかもしれない」
(――略奪するほど、いい女とは思えないし。だってお父さんの趣味だから)
あえて失敗することを匂わせたら、苦虫を潰したような醜い顔をした。
「仕事で失敗したら、大損するのはどこの誰だ?」
「は~い、この僕です。ついでに親であるお父さんも馬鹿にされて、肩身の狭い思いをしま~す!」
わざわざ左腕を挙手しながら、大声で言ってやった。
「とっとと身を固めて落ち着きなさい。一族経営している以上、おまえが役員になるのは決まっていることだ。だからこそ、今のうちから成功を続けて――」
いつものように、お父さんのお説教がはじまった。そのすぐ傍をお風呂からあがった妹が通り過ぎ、蔑む感じの視線を僕に向かってビシバシ送る。僕とは違い、妹の杏奈は頭が大変よく、通っている高校での成績は常にトップで、父のお気に入りだった。
唯一の欠点をあげるなら、見た目だろうか。ハーフなんだけど日本人の割合の多さが、顔のバランスを悪くしている。まぁ女なんて化粧をしてしまえば、ある程度誤魔化すことができるんだから、顔のことについて本人はあまり気にしていないだろう。
そんなこんなで見た目だけがいい僕は、家族内での立ち位置について、完全に一番下になるのだった。