目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
恋の誘導尋問~恋に不器用なアイツから僕は彼女を略奪する~ 綾瀬川澄司編

「ただいま~……」


 仕事が定時で終わり、知り合いに頼まれた合コンに渋々出席した。仕事の付き合い上、どうしても断れなかったため、疲れた体を押して顔を出したのだが――。


 僕は客寄せパンダということを、主催者から事前にお願いされていたせいで、群がってくる女のコたちを無下に扱うわけにもいかず、優しく笑顔で接しながら適当にあしらい、一次会でさっさと切り上げて帰ってきた。


澄司じょうじ、ちょっといいか?」


 リビングでテレビを見ながら、楽しそうにくつろいでいるっぽいお父さんに呼ばれたので、傍にある一人がけ用のソファに仕方なく腰かける。


「なに? 仕事の話? それとも特定の彼女を作れって話?」


 最近顔を突き合わせるとなされる話題を、先に口にしてやった。すでに耳タコ状態である。


「彼女をとっかえひっかえしてるついでに、逢ってほしいコがいるんだ」


(次の仕事に繋げるために、女のコたちと遊んでいるというのに、この言われ方はなんだろうな。まったく……)


「逢うだけなら、別にかまわないけど。ちなみにお父さんの趣味と僕の趣味が違うことくらい、わかってるでしょ」


「相手は松尾笑美さん、おまえよりも年はひとつ上で、彼氏がいる」


 しれっとした顔で告げたお父さんのセリフに、うんと嫌そうな表情を見せつけた。


「は? なに言ってるの。もしかして取引先で、また無茶ぶりしたんでしょ。プライベートと仕事を絡めるなんて、マジでありえない!」


 かくいう僕も、仕事のために女のコたちをとっかえひっかえしてるので、あまり強く言えなかった。


「略奪するくらいの気持ちがなけりゃ、これから先なにかあっても挫けて、うまく乗り越えられないだろうな」


「それって、どっかのイケメンからお母さんを奪った話でしょ。僕にも同じことをさせようとするとか、信じられないんだけど」


 この人のことだ、金品チラつかせて、うまいことお母さんをたらしこんだに違いない。


「清楚で可愛らしい娘さんだ。お茶を淹れるのが美味くてな。ひとめで気に入った」


「お茶なんて、誰でも美味しく淹れることができるものなのに?」


 ひょいと肩を竦めながら指摘してやると、お父さんは目をむいて不機嫌を露にした。


「味音痴のおまえにはわからない、味わい深い旨みと真心があるんだ。明後日一緒に、取引先に行く手筈になってるからな」


「わかったよ。その取引先とやらに行くけど、略奪なんてしたことないから、失敗するかもしれない」


(――略奪するほど、いい女とは思えないし。だってお父さんの趣味だから)


 あえて失敗することを匂わせたら、苦虫を潰したような醜い顔をした。


「仕事で失敗したら、大損するのはどこの誰だ?」


「は~い、この僕です。ついでに親であるお父さんも馬鹿にされて、肩身の狭い思いをしま~す!」


 わざわざ左腕を挙手しながら、大声で言ってやった。


「とっとと身を固めて落ち着きなさい。一族経営している以上、おまえが役員になるのは決まっていることだ。だからこそ、今のうちから成功を続けて――」


 いつものように、お父さんのお説教がはじまった。そのすぐ傍をお風呂からあがった妹が通り過ぎ、蔑む感じの視線を僕に向かってビシバシ送る。僕とは違い、妹の杏奈は頭が大変よく、通っている高校での成績は常にトップで、父のお気に入りだった。


 唯一の欠点をあげるなら、見た目だろうか。ハーフなんだけど日本人の割合の多さが、顔のバランスを悪くしている。まぁ女なんて化粧をしてしまえば、ある程度誤魔化すことができるんだから、顔のことについて本人はあまり気にしていないだろう。


 そんなこんなで見た目だけがいい僕は、家族内での立ち位置について、完全に一番下になるのだった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?