「笑美? あれ?」
目が覚めたら朝だったことに、ひどく愕然とした。いつもならもう少し重だるい体をよいしょと言いながらベッドから起き上がるのに、昨夜施してもらったマッサージのおかげか、無駄なく起き上がれることに驚きを隠せない。
(確か昨日は、お風呂にあがってから美味しい夕飯を食べて、笑美がお風呂に入ってる間に、須藤課長からの情報を精査するのに、書類をあれこれチェックしたっけ)
悶々と昨夜のことを思い出しているときに。
「俊哉さん、おはようございます。起きてますか?」
寝室に笑美が顔を出して、かわいい笑顔を見せてくれた。
「おはよ。昨日はなにもせずに寝てしまって、寂しくなかった?」
書類のチェックを終える間際に、笑美がお風呂から上がり、俺を寝室に誘ったので、いつものように抱きしめようとしたら、唇にてのひらをぎゅっと押しつけられて、見事に止められてしまった。
抱きしめるどころか、変な形でキスを止められた俺の気持ちを考えてほしい。あのときの俺は、かなり格好悪いと思われる。
『俊哉さん、ここに頭をのせてください』
ベッドヘッドを背もたれにした笑美が、膝枕をしようと俺を呼び寄せた。たまにはいいかと考え直し、言われたとおりに頭をのせる。するとかけていたメガネを外され、目の周囲をマッサージしてくれた。
『笑美、結構痛い……』
『これでも優しく押してるんですよ。我慢して』
『でも痛い』
『俊哉さんはメガネを普段からかけているから、きっとお仕事で負荷をかけていると思うんです。目が疲れると自然と姿勢が悪くなって、いつの間にか肩も凝っちゃうし、そのせいで血流が悪くなったら、疲れが蓄積するみたい」
俺が痛いと連呼したからか、少しだけ力を弱めて指圧してくれる笑美の話を、嬉しく思いながら聞き入った。目を閉じて笑美の声を聞いているおかげで、俺を想う気持ちが染み込むように鼓膜に張りつく。
『俊哉さん、まだ痛い?』
『痛気持ちくなってきた。不思議だな』
『なにが?』
少しだけまぶたを開けたら、優しく微笑む笑美と目が合う。目の血流が良くなったのか、室内の照明がえらく眩しく感じた。
『ご飯前にお風呂に入って、体の芯まであたたまったはずなのに、笑美にマッサージをされてる最中から、足先までホカホカしてるんだ』
『俊哉さんの目元のコリもかなりほぐれてきたし、このまま首もマッサージしちゃいますね』
嬉しそうに笑いかける笑美を見て、俺も微笑んだところまでは覚えてる。的確にツボを指圧する笑美の細い指先を感じつつ、鼻では森林系のアロマを嗅ぎとり、癒されるなぁと思ったことも覚えてるのに、そのあとのことは記憶になかった。