昨夜やり取りしたLINEで、松尾が綾瀬川に駅までの送り迎えをされていることを知った俺は、驚かせる気満々で、彼女が使っている駅前に出待ちしていた。
キョロキョロしていると、塩ビ管色のSUV車から松尾が降りたのが目に留まる。ドアを閉めて頭を下げるタイミングで、大きな声をかけてやった。
「松尾!」
振り返る松尾と走り出す車。俺の姿は微妙に見えないものになると思いながら、小走りで駆け寄った。
「松尾おはよ。この時間帯なら逢えるんだな」
「おはようございます。駅の方向が逆なのに、わざわざ来てくれたんですか?」
「だって社外じゃないと、こうして喋ることもできないだろ。LINEばかりして盛り上がっていても、なんていうか味気ないし」
嬉しそうに微笑む松尾に、笑顔を返してやる。
「アイツ、今朝も普通に松尾を迎えに来たんだな」
松尾からもたらされた情報で、綾瀬川からの告白を断ったことを知った。それでも諦めずにこうして迎えに来るメンタルの強さに辟易しながら、会社に向かってゆっくり歩き出すと、隣に松尾が並んだ。
「昨日ハッキリ言って断ったのに、なにもなかったような感じで挨拶されちゃいました」
「アイツ、自己中心的な性格だから、思いどおりにならなくて、ただ意固地になってるだけなのかもしれないが、車に乗ったら気をつけろよ」
松尾の隣に俺以外の男がいる事実は、かなり嫌なことなのに、それを許す上司がいるという複雑な状況は、本来あってはならないことだろう。
「はい。私を好きになっても無駄なんだと思えるような態度で、なんとか頑張ります」
はじまったばかりの恋を壊されないように、逆境に強くならなければと気を引き締め直す。離れていても松尾を守る術を、一生懸命に考えたのだった。