黒塗りの車で我が社に乗りつけた四菱商事の専務を、会社の前で丁寧にお出迎えし、打ち合わせに使う書類を急いでデスクに取りに行ったところ、見慣れない紙片がパソコンの傍に置かれていた。
2つ折りにされたそれをなんだろうと思いながら手に取り、開いて読んでみる。某企業名のプリントされたメモ紙の送り主は松尾で、きっと今朝渡したものの返事らしい。
『佐々木先輩、昨日は私の話を
いろいろ聞いてくださり、
ありがとうございました。
抱えていたモヤモヤがすっきりしました。
今度は私がオススメするお店に
是非とも案内したいです。
お仕事頑張ってくださいね! 松尾』
「俺の書いた『また行こうな』に反応して、こうして書いてくれたんだな」
最後の文面を指先で素早くなぞって、松尾から勝手に元気をチャージした。こんなことで、どんな厄介な仕事でもこなせそうな気分になるから不思議だ。
メモ紙を元の形に戻し、胸ポケットに忍ばせる。LINEでは味わえないアナログなやり取りに満足して、颯爽とフロアをあとにした。