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番外編4

 彼氏らしいことをして驚かせようと、松尾が出勤してくる前に先に会社に到着し、愛用しているメモ帳を前に、頭を悩ませていた。


(まずは昨日の礼を書いて、俺に対する印象を良くしなければ。そこからうまいこと、次のデートに持ち込んでみるか――)


『昨日は偶然とはいえ、

一緒に呑めて楽しかった。

松尾のいろんな話を聞いてやるから

また行こうな。 佐々木』


 他人行儀ともいえる、あっさりしすぎた文章を前に、このままじゃいけないと胸の前に腕を組んで考え込んでいたら、「佐々木先輩おはようございます。コーヒーです……」という遠慮がちな声が耳に届いた。


 顔をあげて横を見ると、俺の視線を避けるように、隣のデスクに移動しようとしたため、松尾の着ている制服のベストの裾を掴んで引き留める。


「松尾、おはよ」


「ぉおっ、おはよ、ござぃま、すぅ……」


 俺を意識しているらしい不審な挙動に、笑いを堪えるのが大変だった。


「今日は当番だったんだな。早く終わらせて、自分の仕事をやっつけろよ」


 そんな松尾のおかげで、妙に力んでいた気持ちが、面白いくらいに抜け落ちた。よそよそしい文章を書いたメモ紙を握りつぶしてなきものにし、松尾が淹れてくれたコーヒーを飲む。


 芳醇な香りと独特な苦みをしばし堪能してから、頭の中をリセット。昨日のやり取りで感じた、素直な想いを書き込んでみる。


『珈琲美味かった!

昨日は一緒に呑むことが

できただけじゃなくて、

楽しい時間を過ごせたのが

とても嬉しかった。

松尾、ありがとう。

また行こうな。

             俊哉』


 これを読んだ松尾が、彼氏として俺を意識するのを期待しながら、メモ紙を丁寧に折って、ポケットに忍ばせる。手渡すタイミングを計ることすら、今は楽しくてならない。

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