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番外編3

 しょっぱなから、ビールを飲む松尾のペースが速かったゆえに、自分の介抱を狙った彼女の罠の関係で、一夜を共にする羽目になるかもしれないと考えた。


 こうして男の下心をくすぐる女は、数知れずいる――正直なところ、そういう女には興味がないので、松尾も同じことをしてくるようだったら、お付き合いを断ろうと思っていた。しかし――。


「元彼と付き合いはじめたときは、すっごく優しかったんです。それなのに、いつの間にかLINEの数は増えていき、気に入らないことがあったら目の前で物に当たられたりして、恐怖しか感じなくなってしまったんですけど」


 ピッチが速かった松尾は、話しながらビールを飲むペースを落としていった。きちんとコントロールしている姿に感心したが、話す内容がいかんせんハードすぎて、リアクションに大変困ってしまったのである。


「私と連絡がつかなかったときは、必ずスマホをチェックされたり、本当に友達と一緒だったか、電話されて裏をとられたり」


「あ~元彼は、結構しっかりした奴だったんだな。しっかり度がいき過ぎてるとは思うが」


 ビールで口内を潤しながら、しどろもどろに返答する。


「スマホ、何台破壊されたっけ……」


 遠い目をして思い出し笑いしている松尾を、憐れみを含んだ目で眺めた。


 元彼から暴力を受けていないことは、俺から不意に触れたときの松尾のリアクションで、されていないことが判明していた。もし暴力を受けていたら、俺の挙動に驚き、手を叩いたり体をビクつかせるなど、あからさまな拒否反応を示すだろう。


 しかも松尾が赤面するようなことを、俺がわざと言ったり行動したときの反応も初心すぎることにより、元彼から大切に扱われていなかったことが推測できた。


「俺が仕事ばかりに、気を取られていたせいだろうな。灯台下暗しとはこのことだ」


「佐々木先輩、なんのことですか?」


「こっちのこと。松尾に声をかけてもらえて、よかったと思ってさ」


「私もです。今まで元彼に束縛された分を発散しようと、ぶらぶらしていて、すっごくラッキーでした。まさか佐々木先輩に、悲惨な話を聞いてもらえるなんて」


 嬉しそうに言った松尾は、すごく美味しそうにビールを飲み干した。見ているだけで自然と和んでしまう、居心地の良さを再確認したところで、俺の中で松尾と付き合おうという気持ちにシフトチェンジした。


 コイツが自然体でいられる彼氏になるには、俺はどうしたらいいんだろうな。

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