斎藤ちゃんよりも背は低いけど、力は確実に加藤先輩のほうが上だろう。それでも必死になって加藤先輩の腕から逃れようと暴れる斎藤ちゃんのように、私も見えないなにかに対して、全力で抵抗できるのだろうか。
「まっつーがなにに不安になってるのかわからないけど、佐々木先輩とふたりだったら、どんなことでも乗り越えることができると私は思うよ!」
「斎藤ちゃん……」
「こんなにたくさんいる従業員の中から、まっつーを選んで好きになって、ずっと一緒にいようって伸ばしてくれた手を、自分を卑下する思い込みで、そのまま見過ごすことができる? 誰よりも好きなんでしょ?」
「笑美……」
斎藤ちゃんのセリフを聞いた俊哉さんが、私に向かって右手を差し出した。その手と俊哉さんの顔を交互に見やる。
(私は自分から手を伸ばすことなく、いつも俊哉さんに掴んでもらってばかりいたっけ)
「俊哉さん……」
差し出された大きな手で、澄司さんから私を助けてくれた。ときには頭を撫でて癒してくれたり、一緒に過ごした週末にはドキドキ感じさせられたり。
「俊哉さん、私をもらってください!」
「わっ!」
俊哉さんの手をすり抜けて、思いっきりジャンプしながら抱きついた。勢いのある私の体を俊哉さんは受け止められずに、ふたりして床に転がってしまう。
「私も俊哉さんと離れたくないです。カッコイイ俊哉さんを見て、向こうの女子社員が絶対に好きになるのがわかるから。誰にも取られたくない! 私と結婚してくださいっ!」
横たわる俊哉さんにしがみついて、抱えていた想いの丈を述べた。同僚のみんながたくさんいる中だったけど、恥ずかしさを感じるなんて余裕すらなくて、私の気持ちを知ってほしい一心で告げたのに。
「…………」
「俊哉さん?」
まったくリアクションのないことを不思議に思って、俊哉さんの顔をまじまじと覗き込んだら、なんとも言えない表情のまま固まっていた。
メガネの奥の瞳は瞳孔が見開いたまま、微妙な感じで左右に揺れ動き、涙目になっている様子は、明らかにおかしいものだった。
「どうしたんですか? 俊哉さん」
訊ねながら体を揺らそうとした途端に、「腰が逝った……」とひとこと呟いて、うっと息を飲む。
「うわぁ、ごめんなさい。こんなことになるとは思わなくて」
「いや、俺も。土日使いすぎたせいで、笑美を支えられなかっただけだと思う」
誰にも聞こえないように耳元で囁かれた言葉で、週末一緒に過ごしたことを思い出してしまった。
「俊哉さんが、ぎっくり腰になっちゃいました……」
腰に響かないように、俊哉さんを抱き起こしながらみんなに報告すると、大爆笑されてしまった。
「佐々木、これじゃあひとりで名古屋にいけないな。松尾に介護してもらわないと!」
「ホントそれ。自分の身を挺して松尾に結婚させるなんて、策士にもほどがある」
「まっつーもほどほどにしないと、佐々木先輩の腰が壊れるから気をつけなよ!」
なんてお祝いの言葉や、体をねぎらう言葉がたくさんかけられる中、私たちは支え合いながら立ち上がり、目を合わせて微笑んだ。
これから先もずっと、こうして仲良く支え合って、にこやかに笑っていくことを誓うように――。
~Happy End~
最後まで閲覧ありがとうございました!
時間があれば、その後の番外編(名古屋での新婚生活)をこのあと書きたいなぁと思います。