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(佐々木先輩が来るなんて想像すらしてなかったから、部屋の雑然さを見られるのがつらいけど……)
ハイヤーの中で、そんなことをぼんやりと考える。このまま佐々木先輩を帰してしまうことに躊躇いを覚えたので、お茶くらい飲んでいってくださいなんて言いながら、家の中に招き入れた。
「松尾、ここに来て早々なんだけど、買い物行ってくる」
玄関で靴を脱いだ佐々木先輩が、唐突に切り出した。振り返ると俯いたまま、足元をじっと見ている姿があって、まったく表情が窺えないため、なにを考えているのかわからない。
「買い物?」
「ああ。その間にシャワーを浴びたらいい。シャワーよりも風呂に入ったほうが、リラックスするかもな、うん」
視線を右往左往させた佐々木先輩は、しどろもどろに答えるなり、脱ぎたての靴を慌ただしく履き、玄関に置きっぱなしにしていた鍵を手にして飛び出した。しかも外から、きちんと鍵をかけて出て行く。
「なんでそんなに、慌ただしく出て行ったんだろ?」
シャワーを浴びろだの、風呂に入れなどの指示をわざわざして出かけたことに首を傾げた瞬間、鈍い私でもこの先のことが頭に浮かんでしまった。
「いやまさか、アレを買いに行ったんじゃ……。でもさっきいきなりキスされちゃったし、意識しないほうが――」
さっきまで引きずっていたショックから一転、今度は違うことで心がざわざわする。しかもその原因が佐々木先輩ということで、自然とテンションがあがってしまった。
(とにかく、この雑然とした部屋を見られたくない。片づけられるところを片づけてから、お風呂に入ろう!)
余計なことを考えないように部屋の整理整頓に集中してから、お風呂に入ったのだった。