「ちょうど仕事のやる気が失せかけていたときに、笑美さんと出逢ったんです」
「そ、そうだったんですね」
涙を拭った澄司さんが、顔を動かして私を見つめる。泣いた後だからか、エメラルドグリーンの瞳が濃い色味に感じ、どことなく宝石を思わせるそれに目が奪われた。
「最初は笑美さんのこと、どこにでもいる女のコっていう認識だったんですけど、ひたむきに仕事をしている姿や、僕を御曹司扱いせずに、綾瀬川澄司個人として叱ってくれることとか、すごく嬉しかった」
「だって、澄司さん言ったじゃないですか。友だちとして一緒に頑張りましょうって。私はその言葉に忠実に従っただけ。友だちを特別扱いなんてしませんから」
あえて『友だち』という言葉を連呼して、友だち以上になれないことをアピールした。それなのに澄司さんは目力をさらに強めて、私を射すくめる。
「僕を普通に扱ってくれる、笑美さんが大好きです。左耳の裏にあるホクロや腰骨の傍にあったピンク色の星型の痣も、全部が愛おしい」
左耳の裏のホクロなんて自分じゃ見れないところなので、そんなものがあることに驚いたけれど、腰骨の痣は服を脱がさない限り見られない。もしかして――。
「な、なんで痣……痣のことを知っているんですか」
私の問いかけに潤んだエメラルドグリーンの瞳が、三日月のように細められる。
「あまりにも可愛い形をした痣だったので、キスしながら舐めてしまったんです。ちょうど睡眠薬が切れかけていたせいか、笑美さんの口から甘い吐息が漏れましてね。感じるたびに、痣の色が濃く浮かび上がってきました」
言い終えないうちに左手首を掴まれ、輪っかのようなものをつけられてしまった。輪っかの表面には柔らかい素材のなにかが巻かれているため、手首が痛む心配はなかったものの、こんな物騒なものを嵌められた時点で、抵抗しなきゃと全力で抗ってみたけれど――。
「やっぱりこうでなくっちゃ。もっと抵抗してください。じゃないと反対の手にも、手錠をかけちゃいますよ」
「いやっ、やめて!!」
にじり寄る澄司さんの体をフリーになった右手で押したけど、男の人の力にかなうわけなく、簡単に押し倒されてしまった。手錠を嵌められた左腕を引っ張られ、ガチャガチャ音を立てながら、ベッドの柱に固定される。
「澄司さん、こんなの間違ってる。嫌いになるから!」
「嫌いな男に感じさせられることを、今から考えてみてください。笑美さんが嫌がっても、カラダはどんどん快感に沈んでいくんです。嫌だと言えば言うほどに――」
左腕を上げたままの私に跨った澄司さんは、パジャマのボタンをゆっくり外した。これからおこなわれることを想像しただけで、いやおうなしに体が震える。