イケメンの佐々木先輩(ガッツリエロ疑惑!)に冗談で交際を申し込んだら、OKされただけじゃなく、想像以上に好かれてしまったことに戸惑いを隠せない私は、あのあと挙動不審にならざるをえなかった。
仕事中もなんとなく背後から、佐々木先輩の視線が飛んできている気がしてソワソワし、頼まれてる急ぎの仕事がもたついてしまった。
お昼休みも一緒にご飯に行くかと誘われるかもしれないと思い、慌ててフロアを飛び出して逃げたり、退勤時間になった途端に、誰よりも先に会社をあとにした。
バカみたいに意識しまくった昨日を、深く反省した今日。お茶当番だった昨日は早めに出勤したけど、本日は始業開始10分前に到着し、いつものように「おはようございます」と言いながら自分の席を目指す。
するとフロアにいる従業員の視線を、一斉に向けられただけじゃなく、ヒソヒソ話をされる始末。
(どうにも嫌な予感しかしない。昨日の四菱商事の見合いのことが、ヒソヒソ話の原因だろうか?)
肩を竦めて体を小さくしながら席に着くと、仲のいい女子社員の斎藤ちゃんが走ってやって来た。
「まっつー、おはよ。ちょっといつの間に、佐々木先輩とデキちゃったの?」
「はい?」
「ヤバいよ、お局グループが騒いでる。佐々木先輩を狙っていた霧島先輩が、昨日泣いちゃったみたいで……」
斎藤ちゃんが説明している最中、話に割り込むようにデスクに置かれたマグカップ。ふたりで同時に振り返ると、お局グループのリーダー梅本さんが睨みをきかせた。
「松尾さん、お昼休みに話があるから。絶対時間作ってよね!」
ドスの効いた声で命令されて、ザーッと血の気が引いていくのがわかった。
呆然とした私が返事をする前に、梅本さんがコーヒーを配りはじめてその場からいなくなってから、気遣うように斎藤ちゃんが話しかける。
「まっつー、お昼一緒にいてあげようか?」
「ありがとう……。一緒にいてほしいけど、全然関係ない斉藤ちゃんが友達っていう理由で、お局グループの先輩方に口撃されるのを見たくないし。ひとりでなんとか耐えるよ」
元はと言えば今回のことは、自分がまいた種。お局グループに佐々木先輩を狙っている先輩がいるのを、すっかり忘れていたとはいえ、こうなることを予想できなかった私も悪い。
「前彼との不幸な縁がぷっつり切れたまっつーに、素敵な彼氏ができて幸せになって良かったと、私は思ったんだよ!」
斎藤ちゃんの応援する気持ちが、言葉になって私に伝わってきた。会社の愚痴から元彼との経緯までいろいろ話を聞いてもらっているおかげで、彼女にはたくさん助けられている。
「斉藤ちゃん、お局グループからの話し合いのあとで、愚痴聞いてください」
「もちろん聞くよ。遠慮しないで、たくさん愚痴って!」
こうしてひとりで、お局グループと対峙する覚悟をした。どんなにひどいことを言われても、我慢して耐えようと決意したのに――。