私が着替えてギルバートの部屋へ行くとヴァローネ伯爵が縛られて床に座らされていた。
私を見ると、
「こんな事をしてただで済むと思うなよ!!」
と叫ぶ。
「相手が女だと見るとそうやって威勢が良くなるのは、みっともないから止めた方がよろしいですよ?」
と私がにっこりと笑って、彼の前に置かれた椅子に腰掛ければ、私の左右にテオとムスカが並んだ。
ヴァローネ伯爵は、前に一度ムスカには会っている、彼はテオをチラリと見ると、
「この男は誰だ?」
と尋ねるがテオは、
「お前に教える必要はない」
と淡々と答えた。
私はそれにヴァローネ伯爵が反応して煩くなる前に、
「さて、ヴァローネ伯爵。我がオーネット公爵領のこんな場所まで私に会いに来たのですか?それとも他に用が?」
と尋ねた。ヴァローネ伯爵は不貞腐れた様に、
「なーにが『我がオーネット公爵領』だ。元々は私が育った場所だ。お前の物ではない!」
とツバを飛ばす。……汚い。私は彼からもう少し距離を取る為に椅子を少し後ろへとずらした。
「私の質問に答えていただけませんか?それとも私の質問の意味がわからないとか?」
と私が皮肉れば、
「ふん!自分が育った場所へ来る事に特別な意味があるのか?別にいつ来ても良いだろう?!それとも何か?ここに来るのにお前の許可が必要とでも?」
とヴァローネ伯爵は煽る様にそう答えた。
すると、ムスカが部屋の入口付近に侍っている護衛に合図する様に頷いた。その護衛が頷いて扉を開くと、寮に残して来た護衛がメグを連れて部屋へと入って来た。
え?まさか……メグが共犯者?
「彼女が教えてくれました。あの火事の前に、貴方がテリーに会いに来ていたと」
とムスカが言えば、メグは少し周りを見渡した後、俯いてしまった。物々しい雰囲気に怖じ気付いたのだろう。
私は、
「メグ、ゆっくりで良いのよ」
と優しく声を掛ける。するとメグは頷いて、ゆっくりと話し始めた。
「あ……あの………一昨日。オーネットのお屋敷から手紙を持った早馬がテリーを訪れたんです。
……たまに、オーネットのお屋敷の使用人がテリーに会いに来ていたから、その時は特に、気にしていませんでした。
そうしたら……その後テリーが足を挫いたと……。お医者を呼んで診てもらおうと言ったんです。テリーは『大した事ないんで大丈夫です』と言った割には鉱山へは行かないと言うし、その時に少しだけ違和感を感じていたんです」
そう言ったメグが私の目を見る。私は安心させる様に頷いて微笑んだ。メグはホッとした様にまた話し始める。
ヴァローネ伯爵は彼女の口から何が語られるのか分からずに不安そうに後ろを振り返ってメグを見ていた。
「奥様をあの家に泊める為に……寝具を整えに外に出た時に……この人を見かけたんです。この人が走って森の方へと行くのを見ました。何故こんな場所に鉱夫ではない者が?と不思議に思っていましたが……その後に……テリーを見かけました」
「その時テリーと何か話した?」
と私が質問すると、
「暗がりだったので、私が話しかけるとテリーは驚いていました『どうかしたの?』と尋ねると『壊れた馬車の部品を探しに来ただけだ』と」
「誰かと会っていた……とは言わなかったのね」
「はい。でも……馬車の部品があるような納屋とは真逆の場所だったので、二人が会っていたのでは……と」
とメグが言うと、
「ほら見ろ!何の証拠もないじゃないか!そこの女の勘違いだ!!私がそこに居た証拠もなければ、そのテリーとかいう男も知らん!!」
と伯爵が吠えた。
「私は、ヴァローネ伯爵領の出身です。伯爵の顔は分かっています。森に逃げたのはあなたで間違いありません」
とメグは反論するも、伯爵は
「だったら何だ?何度も言う様にこの領に来るのに許可がいるのか?」
と馬鹿にした様に言う。するとギルバートは、
「貴方が居た時には無かったルールなのかもしれませんが、ご主人様は鉱山の秘密を守る為、鉱山の付近には関所を設けて交通手形がない者は通さない様になっています。
だから、貴方は関所のない森を通った。わざわざ隠れる様に。あの森から鉱山へ通る道は知っている者が限られています。
子どもの頃、ここで育った貴方なら知っていても不思議はない。用があるのなら、手形を取って来られたら良かったのでは?何故隠れてコソコソと?」
と静かに言った。
「…………」
黙り込む伯爵に追い打ちをかける様に、
「で、今捕まってる理由については?この宿屋には奥様一行しか宿泊していない。貸し切りだ。そこに刃物を持って近づいた理由を聞いてる」
と言って、手に持っていた刃物を掲げて見せた。
……刃物……?自分で?馬鹿なの?
私が驚いていると、また廊下が騒がしくなった。
そして寮に残して来た護衛の一人が部屋をノックして入って来た。
「テリーを捕まえました!荷物を纏めて逃げようとしていました」
と両手を後ろ手に縛られたテリーを床に転がした。
テリーは伯爵を見るなり、
「もうおしまいだ!全部喋った!」
とヤケクソの様に叫んだ。