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第26話

私はテオが出て行った事を確認すると、


「ソニア、どうかした?」

とソニアに話の先を促した。


「実は……お茶会や夜会に出てみたい…と」


「彼女は平民よ?そんなもの参加出来る訳ないじゃない」


「もちろん私もそう言いましたよ!そしたら悲しそうに眉を潜めて『ずっと憧れてきたんです。もし参加するのがダメなら、ここでお茶会や夜会を開いてそれを見るだけでも良いの。小さな頃からの私の夢だったの』なーんて言うんですよ。

テオドール様の事は秘密であるのに、ここでそんな物を催したら、一体どうなるか…!あの人には想像も出来ないんでしょうかね?」

とソニアは溜め息をついた。


この屋敷に二人を住まわせているだけで、私もハラハラドキドキしているのだ。

彼女も散々昨日ギルバートにお説教された筈なのに。


「とりあえず、公爵様の喪が明けるまで、うちでそういう催しをする予定はないと伝えて頂戴。それでも納得しない時は私からお話するわ」

と言う私に、


「あと……ドレスが欲しいとかアクセサリーが欲しいとか、王都の珍しいお菓子を食べてみたいとか……まるで少女の様に、はしゃいでおいででして」

とソニアは困ったように言った。


「困ったわね。あまり目立つ事をされては面倒なんだけど。今のご自身の状況がわかっているのかしら?」


「ドレスもアクセサリーも着る場所も着けて行く所もないと思うので、それとなくお断りしたんですけどね。

とりあえずお菓子ぐらいならと、用意しましたけど」

私とソニアは同時に溜め息をついた。



ソニアには労いの言葉を掛けたが、昨晩も私より早く食堂で夕食を食べようとしていた彼女に、厨房や、給仕の使用人からも不満が上がっていた。

今後は部屋に食事を運ぶように指示したが。


『本当にご実家であの方、メイドされてたんですか?』

と使用人達に言われて、私の考えた設定が甘かったな……と反省した。


……ってか、反省するのって私?!違わない?


ソニアが部屋を出てたっぷり一時間程が経った頃、テオは戻ってきた。


「……すみません」


「休憩を与えたんだから、別に謝る必要はないわよ。それより、この書類なんだけど……」

と私がテオに書類を見せながら話始めると、テオはその書類を手に取りながら、


「……あの人、何かしましたか?」

とポツリと私に尋ねる。


「別に貴方が気にする必要はないわ。それより、ここと、ここ。計算が間違ってるみたい。慌てなくて良いから、ゆっくり見直して。それから私に渡してくれる?」


「わかりました」

と少し頭を下げたテオに、


「今は仕方ないけど、公爵を継いだら、そんなに簡単に頭を下げちゃダメよ?もちろん謝罪が必要な時は別だけど」

と私は言いながら、ここに来た当日、私もそうやって注意された事を思い出す。


思わず私は笑ってしまった。


「?何で笑ったんですか?」

と不思議そうなテオに、


「あ、貴方を笑ったんじゃないの。私もここに嫁いだ当初、同じように注意されたなぁって思って。まさか私が同じように誰かに注意する様になると思ってなかったなって考えたら、ちょっとおかしくなっちゃって」

と私が言えば、


「何年前ですか?」

とテオは私に尋ねた。


珍しく会話が続いている。


「八年前ね。私は中流伯爵家で育った普通の田舎の令嬢だったの。王都への憧れはあったけど、同時に怖かった。学園に通った事もなければ、デビュタントも体調を崩して出席しなかった私には、友達と呼べる同年代のご令嬢もいなかったし。

そんな私がまさか、この名家と呼ばれるオーネット公爵家に嫁ぐなんて、夢にも思わなかったわ」


「どうして、あの男と結婚したんですか?」


ここで『貴方のお父様がお母様を愛するあまり、お飾りでも文句言わない行き遅れを選んだからですよ』とは言えない。

そんな事を言えば、またテオは『すみません』と謝りそうだ。


「私は選ばれただけだから」

と理由を明確に告げるのは止めた。


「断ろうとは?」


「無理よ。身分が違うもの。貴方もこれからはそういうものも学んでいかなければね」

と私が微笑むと、


「貴族って、つまらないんですね」

とテオは捨て台詞の様に言うと、私が与えた机に向かった。


あら?何だか不機嫌になっちゃったわ。


そうよね。彼も自由に恋愛がしたかったのかも。でも……この家を継げばそうはいかない。

彼の結婚相手は熟考に熟考を重ねた上で決定しなければならないのだ。

そう思うと貴族とは、何ともつまらない。

彼の言う通りなのかもしれないと私はそう思った。


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