ダンスを終えた私達は、改めて王家への挨拶に向かう。正直、既に疲労困憊なんだけど。
「殿下、ご機嫌麗しく。ご婚約おめでとうございます」
と公爵様は王太子殿下へと声を掛けた。隣にはつい先月婚約者となったバーナード公爵のご息女である、パトリシア様が微笑んでいる。
「あぁ、オーネット公爵。ありがとう。公爵こそ、ついに結婚したんだな!おめでとう。オーネット公爵は一生独身なのだと思っていたよ」
と朗らかに殿下は笑った。
…殿下もあの噂を知ってるのかしらね。
私も、
「殿下、パトリシア様、ご婚約おめでとうございます」
とカーテシーで挨拶をした。
すると、私を見たパトリシア様が、
「ステラ様!お祝いの品、ありがとうございました!」
と言いながら、私の手を握ってきた。それを見て公爵様は目を丸くしている。
「気に入って頂けましたか?珍しい品だと聞いて、直ぐ様パトリシア様のお顔が思い浮かびましたのよ?」
と私が微笑めば、
「流石ステラ様ですわ!私が珍しいお香を集めているのをご存知でしたのね。皆様いつもステラ様の噂をしていますの。お茶会でのお土産も、おもてなしの品も、何故か皆様の好みをバッチリ当ててしまわれるんですもの!」
とパトリシア様は嬉しそうに私にそう言った。
隣の殿下も、
「パトリシアがこんなに楽しそうにしているのを初めて見たな。パトリシアは少し控え目な質だから」
とパトリシア様を愛しそうに見つめた。
二人は想い合ってると聞いていたが、噂は本当の様だ。
「ここ最近、オーネット公爵家のお茶会に招待されるのが、ご令嬢達のステータスですの。だって招待される方がいつも少人数なんですもの。その招待状はレアだって言われてるのよ?」
と少し甘えた様に殿下を見るパトリシア様はとても可愛らしい。
ちなみに、招待客が少人数なのは、この隣のドケチ公爵のせいだ。人数を絞らなければ、予算をオーバーしてしまうからだ。それがレア感を増すことになったのだが、それを言うと公爵の手柄になりそうなので、絶対言わない。
「パトリシアは大人しいから、なかなか仲良く出来る者が居ないんだ。出来ればオーネット公爵夫人、パトリシアと仲良くしてやってくれないか?」
と言う殿下に、
「私で良ければ喜んで。こんな可愛らしいパトリシア様と仲良くさせて頂けるなんて、私の方こそお願いしたいぐらいですわ」
と私は優雅に微笑んでみせた。
次は国王陛下と妃陛下に挨拶だ。
「ディーン。さっきは中々面白い見せ物だったな。見事なダンスだった」
と陛下は面白そうに言った。
公爵様は不機嫌そうに、
「お陰で疲労困憊ですよ。私で遊ぶのは止めていただきたい」
と答えると、陛下は「ハハハハハ」と楽しそうに笑った。
そして私を見て、
「公爵夫人、デビュタント以来かな?」
と私に微笑んだ。
「いえ、実は私、デビュタントの日に体調を崩しまして。ですので、初めてお目にかかりますわ。陛下」
と私はカーテシーをしてみせた。
「おおそうか。しかし先ほどのダンスは見事であった。ダンスが得意なのか?」
「いえ。得意という訳ではありませんわ。ディーン様のリードが素晴らしかったお陰です」
と夫を立てる事も忘れない。
「ほう。こんな無愛想な男にも、良い伴侶というのは現れるものなのだな。ディーン、三十二年間待った甲斐があったじゃないか」
と陛下が公爵様に言うと、公爵様はキッと陛下を睨んだ。……不敬じゃない?それ。
両陛下への挨拶も終え、私達はホールの壁際に置かれたソファーへと向かう。
「パトリシア様に何を贈ったんだ?」
「熱帯の島国に生えているという『白檀』という香木のお香です。なかなかこちらでは手に入らないと言われているようで」
「どこでそんな物を……」
「私が街で見つけた商店の物です。小さなお店ですが、なかなか品揃えが良いので」
「君はパトリシア様とは接点などなかっただろう?」
「これこそが『情報』です。女性はとかく噂話が好きなもの」
「はぁ……井戸端会議で得た情報か。それにしても、いつも好き勝手していると思えば……」
「は?怒られる様な事は何一つしておりませんが?」
「怒ってなどいないだろう!」
「その不機嫌そうな顔とその声色では怒っているようにしか感じません」
ここまでの会話、全て小声。周りにバレる訳にはいかない。
ソファーに座れば、メイドが飲み物を持ってきてくれた。ここで気の効く夫であれば、奥さんの為に飲み物ぐらい取りに行く筈なのだが、この唐変木には通用しない。
すると今度は他の貴族が私達に挨拶に来た。