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第8話

ある日の夜会では、


「君のそのドレス……露出が多いな。恥ずかしくないのか?仮にも既婚者だぞ?はしたない」

会場である王宮に向かう馬車の中。久しぶりに顔を合わせたかと思えば、もう説教だ。


苦虫を潰したような顔で私のドレス姿を上から下まで見た公爵様は、苦々しく言った。


「ディーン様は女性に興味がないのでご存知ないと思いますが、これぐらいの露出は夜会では当たり前です。前公爵夫人が御用達にしていたプティックは高価なだけで、全く今の社交界の流行についていけていませんでしたので、申し訳ありませんが切りました」


「切った?あそこはうちが代々お世話になっている所だぞ?!また勝手な事を!」


「あら?このドレス、前公爵夫人が買っていたドレスより二割程お安いんですのよ?どケチなディーン様にはどこで買ったかより、いくらしたのか?の方が重要なのではありません?」


「な?!どケチだと?君は金を稼ぐ大変さを知らないからそんな事が言えるんだ!自分で稼ぎもしないくせに、よくもそんな事が言えたな!」


「ですから、節約したと言っているではないですか。高価なだけのドレスではなく、質も品も良く、今までより安く買ったと言っているのですから、何の文句があるのです?それに、女性の仕事は社交です。ディーン様に出来ない事を私は代わりにしているのです。確かにこの仕事には対価としてのお金は発生しませんが、お金に換算すればかなり高額なものを私は得ております」


「高額なもの??」


「情報です。情報はどの貴族も喉から手が出る程欲しいもの。情報を制する者は社交界を制する事も可能です」


「ふん。情報が大切な事ぐらい、私だって分かっている!しかし、ご夫人方の無駄話に何の価値があるというのだ」


「これだから……。女性の噂話を馬鹿にしてはいけません。そこには重要な情報が隠されております。例え無駄が七割であったとしても、残り三割には本当に価値のあるものが混ざっております。それを見極めるのも私の重要な仕事です」


「偉そうに。それがうちの家に何の役に立っているというのだ」


「それは今から向かう夜会でご覧にいれますわ」


「ほう。それは楽しみだ。もし何の役にも立たなければ……君の行動をこれから制限させて貰おう」


制限って。今でも結構煩くされてますけどね!


一緒に馬車に乗っているソニアはハラハラしながら私達の口論を見守っている。


…安心してほしい。これはいつもの事だ。


夜会に到着。黙って腕を差し出す公爵様に、


「あら?女性嫌いでもエスコートは出来ますのね」

と嫌味っぽく言えば、


「馬鹿にするな。公爵としての嗜みぐらい、一通り押さえている」

と不機嫌そうに言う公爵様の腕を私は取った。


私達は周りに聞こえないぐらいの小声でずっと、嫌味を言い合っていた。

もちろん私は笑顔を絶やさない。公爵様はいつも通りぶすっとしてるがこれは通常営業だ。


王家のダンスで夜会がスタートする。上位貴族であるオーネット公爵家は次にダンスホールに出ていかねばならない。


「君、ダンスは踊れるのか?」


「それこそ馬鹿にしないでいただけますか?何度も言いましたが、一度見たものは忘れないんです」

とは言え、二人で踊った事は無い。そうぶっつけ本番だ。


「ほう?では、君がしくじったら私の言う事を一つ聞いてもらおう」


「では、ディーン様がしくじったら、私の言う事を一つ聞いて貰いますから」

と私は笑顔を向けた。


クソが。


私達は決戦の舞台に二人で踏み出した。


全く二人で合わせた事はないのに、お互い絶対に負けたくないという気持ちからか、失敗なく踊り切る。

すると、陛下が


「おー!ディーン!お前がダンスをする所など初めて見たぞ!息ピッタリだな!」

と声を掛けてくるものだから、周りからも拍手が起こる。変に注目を浴びてしまった。すると、公爵様は、


「これぐらい踊れますよ。今まではあえて踊らなかっただけです」

なーんて答えてしまったものだから、


「ほう。ならばもう少し難しい曲でも踊れるかな?」

と陛下はニヤリとした。


まだ、王家との挨拶も終わっていないのに、何だか変な事になってしまった。


その後、調子に乗った陛下は次々と難解な曲を私達にぶつけてきた。


私達は私達で負けられない戦いがある。お互い、相手の言いなりになどなりたくない。

私と公爵様はギリギリの攻防を繰り広げながらも何とかダンスを踊りきった。


私達の事情を全く知らない陛下と周りの貴族からは拍手喝采だ。


私達はお互いに肩で息をしながら、


「引き分けだな」「引き分けですわね」

と同時に口にした。


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