Chika:今日は彼氏にレストランで奢ってもらう予定なんだ~
なんてSNSに投稿した。そんな予定はないんだけどね。彼氏がいるのは事実ではあるけれど。彼は、あまり出かけるのが好きなタイプではないからね。まあ、分かっていて付き合っているあたしもあたしなんだけど。
とはいえ、SNSの上でくらい、理想の自分を追い求めたって良いと思う。そんなの、誰でもやっていることだよね。
そう考えていると、彼からメールが届いた。なんでも、今日はどこかに食べに行かないかと。妙な偶然もあるものだよ。彼は私のアカウントなんて知らないはずだし。ただ、ちょうどいいかも。この経験を投稿したら、質感が出ると思うし。
ということで、彼と一緒に出かけることにした。まあ、ファミレスではあったんだけど。そこでは珍しく彼が奢ってくれて、本当に妙な偶然だと思ったものだ。
「まあ、たまには良いだろ?」
なんて格好をつけちゃって。普段は奢らない証なんだから、笑っちゃいそうだけど。まあ、不満はあるとはいえ、別れるほどではないかな。
その日は面白い偶然があった。それで終われば、どれほど幸福だっただろうね。
次の日も、いつものようにSNSに投稿する。
Chika:なんと! 今日は彼氏の方からキスしてもらっちゃったんだ。舌まで入るやつ!
それから出かけていると、外出先の公園で彼と出会う。そのまま少し会話して終わろうと思っていたら、突然キスをされた。
「ちょっと……やめて!」
人も居るのに、ありえない。そう思っていたんだけど。今度は、押さえつけられて、歯が当たるくらいに唇同士がぶつかって。それから、舌を入れられてしまった。
逃れようとして突き飛ばすと、ようやく離れてくれる。どうしちゃったんだろう。普段はそっけないけど、だからといって嫌がることをする人じゃなかったのに。
そんな事を考えながら帰って、私はひとりで泣いていた。別れようかどうか、悩みながら。ただ、答えは出ないまま次の日を迎えた。
Chika:昨日は彼にひどいことをされちゃった。でも、宝石を買ってくれたから許しちゃう!
そう投稿したら、しばらくしてチャイムが鳴った。扉の先を覗くと、彼が居た。何か袋を持って。謝るために、手土産でも持ってきてくれたのだろうか。そう考えたけれど、怖くて。扉を開けられなかった。
すると、彼は扉を何度も蹴り始める。もしかしたら、彼に殺されるかもしれない。そんな考えがよぎった。
だから、奥の部屋に隠れて、鍵を閉めた。でも、玄関が壊されたような音が聞こえて、足音まで聞こえる。私は、どうしようもなくて震えることしかできなかった。
そのまま、最後の扉まで壊されてしまう。いよいよ私も終わったかな。そう考えていると、袋を差し出される。
何が入っているかも分からなかったし、怖かったけれど。でも、逆らったら殺されるとしか思えなくて、袋を開いていく。すると、そこには小さな箱が入っていた。いかにも、宝石が入っているかのような。
嫌な予感をぬぐいきれずに箱を開くと、やはり中身は宝石だった。
つまり、私がSNSに投稿したことが見られていた。だからといって、彼の行動は異常過ぎる。何かあったのだろうか。ストレスが溜まっていたとか?
恐る恐る彼を見ると、微動だにしない。手も足もアザだらけなのに、痛そうにすらしていない。そこまで考えて、嫌な考えが浮かんだ。
その思考を試すために、SNSを開く。
Chika:今日の彼氏は、三回まわってワンって言ってたんだ。
そう投稿すると、すぐに彼は回りだす。それで、状況が理解できた気がする。きっと、SNSに投稿した通りの内容で、彼が行動するようになっているんだ。
なら、納得がいく。最初に彼が奢ってくれたのも。次に無理矢理キスをされたのも。今日、宝石を渡されたことも。ぜんぶぜんぶ、SNSのせいなんだ。
それなら、どうすれば良いのかな。SNSは、封印した方が良いんだろうか。でも、彼はワンと言った後、また微動だにしなくなった。
このままじゃ、彼は何も動かないんじゃないんだろうか。そんな予感がして、声を掛ける。
「ねえ、許してあげるから、優しい君に戻ってよ」
そう言っても、言葉を理解している様子すらない。もう、元通りの彼には戻らないんだろうか。そうだ、元通り!
私は思いつきに身を任せて、SNSに投稿する。
Chika:彼氏、急に昔みたいになっちゃったんだよね。
そう投稿した瞬間、彼は縮みだす。それを見て、私は逃げ出したくなった。
6歳くらいに見える彼は私を見て、首をひねる。
「お姉さん、誰?」
つまり、昔みたいに戻った。私と出会う以前の彼に。訳のわからない状況に、頭を抱えたい。でも、それなら解決策はあるんじゃないだろうか。そうも思えた。
すぐにSNSに投稿する内容を決める。
Chika:彼氏はSNSの影響なんて受けない人だよ。だから、全部元通りになるんだ。
そう投稿すると、彼の身長が伸びていく。そして、なぜか扉も元通りになっていった。これで、全部終わったんだ。そう思って、座り込んでしまう。
彼はこちらを見て、柔らかく微笑んだ。そして、私に話しかけてくる。
「SNSをやっているのか? そんなの、楽しいものじゃないぞ」