一つに重なった衝撃が、龍の体を突き抜ける。
吹き出す血と、断末魔のうめき声。
今度こそ、確実に、その命を終わらせる。
力無く倒れ伏し、黄玉の瞳は開かれたままに、その光を失う。
「ハァッハァッ……父さん、今度こ――」
横にいるグウェスに言葉をかけ終わる前に、グウェスは糸が切れた人形の様に、受け身も取れず仰向けに倒れる。
「父さんッ!? しっかり! 父さん!!」
「ヒュッ……ヒュッ……」
息が短く、呼吸も浅い。
目は虚ろで焦点が定まっておらず、こちらの声が届いているかも分からない。
「ライル君、下がってください! 私が診ます!」
押し退けるようにしてシーリアが割って入る。
他のみんなも続々と駆け寄って来て、いつしかグウェスを囲むように全員が揃っていた。
サンガクは、気づけば大量の血痕を残してその場を去っていた。
あの傷では、恐らく……
意識をグウェスに戻したところで、シーリアが言葉を漏らす。
「これは――もう……」
「なんですか!? 早く治して下さいよ!」
「ライ坊……落ち着け」
「落ち着ける訳ないでしょう!? どうして皆はそんなに! そんなに落ち着いてられるんですか!」
「ライル君、グウェスさんはもう……」
「黙れぇ!!」
どうして、どうして皆!
もうグウェスが助からないみたいな顔してるんだ!!
「ライル君……もうグウェスさんには、魔力が残ってないんです……」
「それがなんだって言うんだよ!」
「
そして龍気による全身火傷、サンガクからのダメージ。
度重なるダメージによる肉体の損傷と、魔力の枯渇による生命力の枯渇。
ライル、分かるでしょう」
「先、生……でも……でも……」
治癒魔術とは、被術士の魔力を活性化させて肉体の治癒を行う。
その為に必要な魔力が、グウェスには無かった。
理屈は分かる。
だが、これでは、あまりにも――
「ラ……イル……」
「!」
それは、最後の力を振り絞った、父からの呼び声。
親子としての、最期の時間の訪れ。
――――
体が動かない。
視界はボヤケて、意識も朦朧としている。
だが、やるべき事がまだある。
使命感が、死に行くこの身を動かす力をくれる。
「ライ、ル……顔を……」
「父さん! しっかりしてくれ!」
あぁ、我が子の顔だ。
あっという間に成長し、いつの間にかこんなにも逞しく育ってくれた。
「頼りに……なら、なくて……すまん」
「何言ってるんだよ! ずっと、ずっと頼れる父親だったじゃないか!!」
「ルコン、ちゃんと……仲、良く……」
「当たり前だろ! 父さんも可愛がってあげてくれよ! ルコン、父さんのこと実の父親みたいに思ってるんだぞ!?」
「娘も、増え……たか……それは――いい、なぁ……」
「おい……!? お……と……ん!! しっ……ろ!」
あぁ、もう殆ど聞こえない。
殆ど見えない。
死は怖くない。
人生の半分は、死と隣合わせの戦いであった。
ただ唯一、気がかりなのは。
愛する息子の未来を。
この目で見届けられないことか。
悔いはある、サラの墓前で誓った約束も果たせそうにない。
「すま、ない……サ、ラ」
弱々しく、自分でも呆れるほどの力無さで右腕を上げる。
ダメだな、数秒と保っていられない。
ガシリと、力強く握り返す感触が伝わる。
小さくも硬く、温かい。
見えずとも分かる。
この手は。
「父さん……今、まで!! ありが……どう!!」
最期にハッキリと聞こえたのは、息子からの感謝の言葉。
天からの慈悲だろうか。
ほんの一瞬だけ、視界が鮮明に映し出すのは、涙に濡れながらも、ぎこちなく笑いかける息子の顔。
「あぁ……サラ、見てくれ……俺達の子は、こんなにも――――」
『ねぇ。もしもライルが、村の外に出たいって言ったらどうする?』
『その時は、ライルが生きたいようにさせてやればいいさ』
『でも……ライルは半魔なのよ?』
『分かってて産んだ時点で、俺達がこの先、あの子の将来を縛り付けることなんて出来やしない。やってはいけないんだ』
『それは……そう、よね』
『だがまあ……たまには帰ってきてもらわないとな。
数年に一回で良い。三人揃って、食事をしよう。
何処かに出掛けるのも悪くないかもしれない』
『あら、珍しい。やっぱりグウェスも親バカになってきたわね、ウフフッ!
その時は、腕によりをかけて美味しいご飯を作らなくちゃ!』
『あぁ、楽しみだよ。おっと、噂をすれば……』
『ふぁ〜あ……今日はブラウとミリーが森に行きたいんだってさ。
夕方には帰ってくるよ、行ってきます!』
『『いってらっしゃい、ライル』』