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第四十四話 「回生、暴狂」

 龍の内に喰らわれた魔素と、魔力が結合する。

 暴風の刃は体内を貫通し、首元から背中までを突き抜ける。

 内蔵も、骨も、肉も内からズタズタに斬り裂かれ龍の体と口からは鮮血が吹きこぼれる。

 力を失った龍の首は地に落ち、体全体から力が抜け落ちる。

 残った左角で龍を抑え込んでいたサンガクも、ゆっくりと頭を離して息を荒げている。


 勝った……

 遂に……俺は、俺達は…………


「ライル――よくやったな」

「父、さん……やったね、俺達。

 村の、皆の……母さんの、仇を……!」


 達成感と疲労感から力が抜け、その場に膝をついてしまう。

 だめだな、カッコつかないわ。

 グウェスも嬉しそうに笑ってる。

 あんな顔を見たのは、久しぶりだなぁ……



 …………ん? 熱い?

 この熱は、何処から――――



 ――――


 生物が生命の危機に晒された瞬間、本来ならば発揮できない力を行使できる時がある。

 人間であれば、普段の何倍もの運動能力の発露など。

 これは、一説では脳が無意識の内にかけているリミッターを解除することで起こる現象である。

 いわゆる、火事場の馬鹿力。



 それは、龍も例外では無かった。



 少年の背で倒れ伏す龍の体に、熱が灯る。

 それは、現段階の赤龍では発現し得なかったモノ。


「!? ライル今すぐ離れ――」


 父の言葉を受けるまでもなく、少年は背後の違和感に気づき、その場を離れようとした。

 しかし、その身に力は既に無く。

 足は子鹿のように震えたまま、歩を進めることはなかった。


 龍の体を中心に爆風が起こる。

 触れたものを焦がす程の熱を伴って。

 龍に触れるほどの距離にいた少年は、無残にもその身を焼かれながら吹き飛ばされ、その父は両腕で急所を守りつつ魔力強化を行うも、全身に軽度の火傷を負ってしまう。


「ライルッ! しっかりしろライルッ!!

 あぁっ……頼むっ! 起きてくれ!」


 自身の体は意に介さず、意識を失った息子を抱き抱える。

 赤龍の翼膜から作った外套のお陰か、多少はダメージを軽減出来てはいるものの、危険な状態には変わりない。


「グウェスさん、ここは一度撤退だ!

 すぐにライル君をシーリアのところへ――」


 騎士団長が駆け寄って撤退を促すが、異変に気づく。



「あ……ッアァ! ァガアァアアァァッ!!」



 男は、闘魔の中でも類稀なる精神力と理性を持って生まれ、生涯にかけてそれを絶やすことはなかった。

 九十年弱を生き、その半生を闘いに捧げた。

 一族同胞の死に耐え、愛した妻の死にすら耐えた。

 そして今、唯一残った最愛の息子が死に瀕している。

 男の理性は、妻を失った時点で断ち切れそうな程に細く擦り減っていた。



 もう――限界であった。



「ォオオアァァァァッ!!!!」


 獣の様な咆哮が轟き、男の全身から黒みがかった赤色の魔力が噴き上がる。


 純血の闘魔が陥る、純粋なる暴狂魔バーサク

 そこに理性は無く、見境もなく。


 目に映るモノ全てを破壊する、衝動の塊である。



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