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第三十四話 「ハプニング」

 登山道は山肌に沿うようにして緩やかに上へと続いており、馬車も進めるようになだらかな傾斜を描いていた。

 道の端には等間隔に木箱が設置されており、この中には魔獣が嫌う臭いを発する素材が入っているらしい。

 こうしてアトラとロデナスとを繋ぐ最短ルートの登山道は安全が確保されていた。

 しかし、安全が確保されているといっても例外はあり、発情期に入った魔獣や気が立って凶暴化している魔獣等が時折登山道を襲撃するケースもあるらしい。

 そういった時のためにも、必ず護衛としての冒険者が複数付くのが常なのだとか。


「止まって、何か聞こえる。これは……」


 先導していたハルシィが手で停止を促す。

 それに合わせて全員が周囲への警戒を強める。

 だめだ、俺には何も聞こえない。


「足音だ! 来るぞ、正面ッ!!」


 声に少し遅れて、前方に続く山道の岩陰から二十弱もの影が猛スピードで突っ込んでくる。

 体長はおよそ2〜3メートル、サラブレッドのような筋肉質な体つき、そして頭には二本の雄々しい角が冠の如く生えている。

 冠山羊クラウンゴートの群れであった。

 まずい、こんな体格の獣があの数で突っ込んできたらひとたまりもない!


「ハニー! 合わせてッ!」

「その呼び方やめな!」


 ハルシィの合図で、隊列後方からあっという間にフィネスが先頭に躍り出る。

 二人は揃いの得物である双剣を腰から抜き放ち、疾風の如き速度で群れへと突っ込む。


「「四足断ちしそくだち!!」」


 身を低くしつつ、すれ違いざまに四本の足を斬りつけてその筋を断っていく。

 ハルシィが右側二本、フィネスが左側二本を同時に、寸分違わず同じタイミングで斬りつけて、合図も無しに次の獲物へと移っていく。

 夫婦として歩んで来た二人のコンビネーションが織り成す技、正に以心伝心。

 二人が何頭かを切り崩してくれたおかげで、後方から迫る冠山羊クラウンゴート達が足踏みして止まっている。


「ライルッ! 躊躇するなよ!」

「分かってるよ!」


 アタッカーであるグウェス達が、次々に動きが止まったものへトドメを刺していく。

 ナーロ村で狩りはしてきた、これまでの旅路で魔獣とも戦っている。

 そしてこれから龍を殺す。

 こんなところで躊躇なんてしていられない。


「! 隊列、右から来るぞ!!」


 気づいたのはグウェスであった。

 おそらく、角による魔力感知。

 それほど精密なものではないためある程度近くでないと機能しないが、ハルシィ達のような索敵に優れる者が突出している時は頼りになる。


「ドノアッ!」

「お任せを!!」


 隊列中央の馬車を側面から襲うように冠山羊が三頭突っ込んで来る。

 左右の二頭をゼールとミルゲンが魔弾で返り討ちにし、残りの一頭を、成人男性一人が丸々覆えるような大盾でドノアが受け止める。


「ぬぐうううぅぅぅぅ!!」


 トラックがぶつかったような凄まじい衝突音の後、後ろに押し込まれながら背中が馬車の荷台にぶつかったところでようやく動きが止まる。

 その隙に、イラルドが横合いからの斬撃で首を落とし残る一頭も沈黙。

 ドノアの背中がぶつかった衝撃により馬車は大きく揺れ、それに伴い馬も暴れてしまい御者がなんとか落ち着かせている。

 荷台の中で荷物が、ガラガラガラ「いたっ!」ガラガラ、と崩れる音が聞こえる。


 こちらもなんとか残りの山羊を片付け、ここでの戦闘は終了だろう。

 にしても入山早々、まだひとつ目のキャンプに着く前に魔獣に襲われるとは……


「早速、でしたね……」

「あぁ、これも赤龍による生態系への影響だろう。

 普段ならば、こんな低い位置では襲われることは無いんだ。こいつらもえらく興奮していたようだしな」


 周囲の安全を確認しつつイラルドへと声を掛ける。

 どうやらこれは騎士団である彼らにとってもイレギュラーなようだ。


「すいません団長! 今の衝撃で荷台の荷物が崩れたみたいで……」

「わかった、すぐ行く!」

「僕も手伝います!」


 さっき盛大に崩れる音がしていたな。

 ん? そういえば声も聞こえたような……


「キャアッ!?」

「シーリア!? どうした!?」


 荷台を覗いたシーリアが悲鳴を上げるので急いでイラルドと駆けつけるとそこには……

 輝くような金髪を切り揃えたショートボブを顔の右側だけ伸ばし、ルビーの様な瞳を持つモフモフ尻尾の美少女、ていうかルコンがいた。

 なんで??


「あ、えっと、その……来ちゃいました……」


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