王都ロディアスを出ておよそ半日、俺達討伐隊の一行はグランロアマウンの麓から広がる樹海前に到着した。
樹海とは言っても山へと続く道は整備されており、その通りに進めば迷う事は無く安全に進むことが可能だ。
樹海への入口にはロデナス王国の兵士団がベースキャンプを設営しており、山を抜ける商人や冒険者達が休めるようになっている。
既に日は落ちているため、今日はここで休むこととなった。
現在俺たちは討伐隊十名、馬車を引く手綱役と護衛の騎士団員五名からなる十五名で行動している。
討伐隊はゼール、グウェス、イラルド、イラルド選抜の騎士団員二名と、Aランク冒険者であるレギン、ミルゲンの他二名と俺からなる。
ここまでの道中は和気藹々とはいかずとも、比較的和やかな雰囲気で来れており、赤龍討伐という共通の目的に協力出来る良い関係が築けている。
「調子はどうだライ坊!」
「どうだも何も、歩いてきただけなんですから変わりはないですよ」
「ならいいんだ。いいか、少しでも変化があればすぐに知らせろよ」
「は、はぁ?」
「彼は何も、体調が心配だから言っている訳ではありませんよ?
パーティや複数人で行動する際、一人の不調や変容で行動指針や作戦に支障をきたす場合があります。
そういった場合、その一人を抱えて行動するよりも置いていった方がスムーズに事を運べる訳ですね。
私達は冒険や戦闘慣れをしているのでそういった事には敏感ですが、君は違う。
何かあればすぐに言ってくださいね」
なるほど、厳しい話だが理にかなっているな。
足手まといを庇う余裕は無い。
無駄死にや怪我をさせるくらいなら置いていった方が良いということか。
なってたまるか、足手まといになど。
「よし、みんな聞いてくれ! これからのルートについてだ」
イラルドが立ち上がって討伐隊の面々に聞こえるように話し出す。
今回の討伐隊のリーダーはイラルドが務めることになった。
騎士団団長であり、経験も豊富で指揮能力にも優れ実力も申し分無い。
彼がリーダーであることに異論は無かった。
「まずは事前の打ち合わせ通りに樹海を抜け、麓に到達。
その後は三千メートル地点まで続く登山道を進むことになる。
整備された樹海の道や登山道は安全に進めるが、兵士団の者によると山脈全域の魔獣達の様子が普段と違い、全体的に凶暴性が増しており活発であるとのことだ。
恐らくは赤龍の存在が山脈全体の生態系に影響を及ぼしているのだろう。
全員、行動中は常に周囲への警戒を怠らないように」
「特に注意すべき魔獣はいるんですか?」
「樹海であれば群体で襲い来る
山脈では
名を挙げられた全ての魔獣がBランク以上、グランコンドルに至ってはAランクだ。
そんな魔獣達が活発化しているとなれば、危険度は平時の比ではないだろう。
「そして最も注意すべきやつがいる。
サンガクは他の冠山羊と比較して数倍程の巨体を持ち、それに伴って角も巨大化している。
群れず単独で行動し、気性は荒く、気に入らない者は容赦なく突き崩す、正に山のヌシというわけだ。
過去にサンガクを討伐するためAランク冒険者が六人で挑んだが失敗、内四人が亡くなる凄惨な結果となっている。
問答無用のSランク認定、コイツとは出会わないことが、今回の討伐において最も重要な要素とも言えるだろう」
Aランク冒険者が六人がかりで敵わない、そんなヤツがいるなんて……
先行きが不安だがこちらには騎士団長のイラルドに闘魔族のグウェス、なによりゼールもいるし人数も十人、きっと大丈夫だろう。
一通りの説明と方針を決め、各々就寝や装備の点検を行う。
俺は身体が小さい為、小さなリュックに携帯食と水、
他の必要物資は馬車とグウェスが持ってくれている。
「良い装備だ、赤龍の素材とは。ゼールさんには感謝しないとな」
「うん、してもしきれないよ。
そういう父さんこそ、短剣なんて使えるんだね」
話しかけてきたグウェスの腰には一歩の短剣が携えられている。
柄に魔石が埋め込まれているため魔具なのだろう、ダガーナイフの様な逸品だ。
「武器は一通り使えるんだが、今回は特に慣れたモノの方がいいと思ってな」
一通り、ときたか。
流石は九十年近く生きた闘魔族、言う事が違う。
にしても武器を使うグウェスか……
今までは徒手空拳のみであったためあまりイメージが湧かないが、きっとなんの心配もいらないだろう。
「明日も早い、もう休んでおけ」
「うん、けど……もうちょっとだけ話さない?
ほら、ロディアスまでの事とか。父さんのことも聞かせてよ」
「む、そうだな……少しだけだぞ」
ロディアスで再会してからも互いに鍛錬や依頼に奔走する毎日を送っていたため、あまり家族としての会話が出来ていなかった。
一緒に行動する討伐中、これはチャンスかもしれない。
もしかしたら、俺かグウェスのどちらかは今回の討伐で死んでしまうかもしれない。
最後の親子の時間、になんてするつもりは毛頭無いが、活かさない手はないだろう。
そうして他愛ない話をして互いに笑い、親子としての温かい時間を過ごし、静かに夜は更けていった。