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第二十六話 「作成?」

「――――以上でございます」

「……ふむ、なるほどな」


 目の前でウルガドが上司であるイラルドへと報告をしている。

 現在俺は、王城ロードスへと連行され一室にて取り調べを受けている。

 まさか夢にまで見たファンタジーの城への来訪理由が国家反逆罪(推定)とは。

 前世でだって警察のお世話になった事は無い。

 内心ビクビクしつつ、即刻死刑にならないだけマシなのかと安心もしている。

 が、遂にバレてしまったのだ。

 おれが半魔であるという事が。

 どうなってしまうのか検討もつかない。

 もしや、本当に殺されてしまうのでは……


「ウルガド、ちょっと外してくれるか? 彼と二人で話したいんだ」

「ですが……いえ、分かりました」

「すまんな」


 ウルガドは渋々といった様子で部屋を後にする。

 部屋の中には俺とイラルドの二人のみ。

 ルコンも別室へと連れて行かれてしまった。

 気まずい……

 結果的に俺はこれまでの道中、イラルドを騙していた事になる。

 修行等で世話になった分、余計に胸が痛い。


「ハァ〜〜〜〜こんな形でバレちまったか〜……」

「へ?」


 今なんて言った?

 バレた? 何が?


「すまんすまん、分からんよな。いや、実はな。

 君が半魔だって事は分かってたんだ」

「え? は? いやいや! 何で分かってたんですか!?

 ていうか、それじゃあどうしてここまで連れて――」

「待て待て落ち着け。

 順に説明してやるから。

 それと先に言っておくが、ゼール殿も君が半魔だということには気づいているぞ」

「なっ……」


 ダメだ、サッパリ分からない。

 イラルドだけでなくゼールまで?

 いったいどういうことなんだ。


「まず、半魔だと俺が気づいたのは直感だ」

「は?」

「確信に変わったのは握手を交わした時だがな。

 同時にこうも思った。

『ゼール殿が気づいてない訳がない』と。

 直感とは言ったが、理由もあるぞ?

 俺がまだ若い時だ。

 ちょうど君くらいの頃か……大戦が起きたんだ」


 神妙な面持ちで語りだすイラルドの顔には、失われた過去を振り返る哀愁が滲んでいる。


「知ってるか?

 大戦が起きるまでは半魔は当たり前の存在だったんだ。

 それこそ、大きな街では探せばすぐ見つかる程度にはな。

 そうなると当然、友達にも半魔がいてな。

 そいつと俺は親友とも呼べる仲だった」


 

 あぁ、そうだよな。

 大戦が起きてからの半魔への風当たりはグウェスから聞いている。

 この時点で何となく話の先は読めてしまった。


「半魔への理不尽な迫害が起きてすぐ、俺は親友の家を訪ねた。

 無論、心配だったからだ。

 幼い俺にとって半魔の身なんて関係無かった。

 だが、世界は違った。

 昨日まで当たり前にあった親友の家は焼き討ちにされ、後日には骨と黒いすすになった親友とその家族が出てきたよ」

「…………」


 何も言えない。

 当時の状況は何となくだが聞いてはいた。

 それでも、実際に言葉にされると大戦の悲惨さがひしひしと伝わってくる。


「俺は世界を呪った。

 こんな理不尽がまかり通るのかと。

 半魔であるというだけで、何故殺されねばならないと。

 その思いから俺は騎士団に入り、少しでも多くの半魔を、人々を救おうとした。

 ダルド王もそのこころざしを掲げるお人だ。

 王は昔も今も、人と魔族を公平に扱い、半魔を保護しようとされている」


「いやいや待ってください! でしたら、あの魔石で半魔を炙り出しているのは何故ですか!?」


「勘違いしないで欲しいが、半魔を炙り出すのが本質ではないぞ。

 あれはれっきとした身元識別の為のモノだ。

 認識石が実用化されたのはここ数年のことでな。

 実際、半魔として判別されたのは君が初めてだ。

 それまではチマチマと各地を捜索しては保護して、辺境の村へと新たな身分を与えて移住してもらっていたんだ。

 もちろん民衆には秘密裏にな。

 それと俺から謝っておきたいんだが、ウルガドのやつは少々……いやだいぶ融通が利かなくてな……乱暴な結果になってしまった事は本当にすまないと思っている。

 この通りだ!」

「いえ、それはいいんですけど……」


 ロデナス王国では半魔を保護していた?

 半魔は禁忌ではなかったのか。

 いや、国のトップである国王がそれを許さないのだと言う。

 だが、世界からの半魔への認識は未だ根強い。

 それゆえ、秘密裏に保護していたということか。

 事情はなんとなく分かってきた。

 しかし、そのうえで俺を野放しにしていたことは理解できない。

 いったい何の意図があってだ?


「っとすまない、だいぶ脱線してしまったな。

 君の事を放置していた理由だが、ゼール殿と話し合っての事だ。

 理由は単純に、君が半魔だと為だ」


 こちらの心を読み取ってか本筋に戻るイラルドだが、その口を突いて出た言葉にはより一層困惑せざるを得ない。

 半魔だとバレてもらう? 何故だ?


「さっぱり分かりません。どういうことですか?」

「ギルドに貼り出されていた赤龍討伐の旨は見たか?」

「もちろんです」

「君の旅の目的はアトラへ向かう事だと聞いてはいるが、赤龍を討つことこそが目下の目的だろう?

 今回の討伐依頼はSランク、君では参加することは出来ないし、期限内にAランクに到達する事も不可能だ。

 仇である龍が倒される事自体は良いことだろうが、それに関わることが出来ないのは君も本望では無いだろう?

 そこでだ――」


 俺の目的、気持ちを見透かす様な言葉を並べるイラルドが続けて発したのは、思いも寄らない作戦であった。


「何らかの形で半魔だと露呈させ、王の御前へと連れて行く。

 そのうえで赤龍討伐への同行を嘆願し、討伐のあかつきには半魔の有用性、その存在価値を国中、いや世界へとアピールする!

 そうすれば君の念願も叶い、俺や王の差別を無くすという悲願も叶う!

 無論、討伐への同行は君だけではなくゼール殿と俺も参加するつもりだ。

 その方が王や周りを納得させやすいはずだ」


 驚きの作戦だ。

 要は俺を半魔としての広告塔にしようということか。

 確かに上手くいけば互いにWin-Winの結果を得られる。


「と、思っていたんだが……」


 イラルドは急にしおらしく頭をかきつつ下を向く。

 なんだ、やはりこの作戦には欠陥があるのか?


「今回のバレた後の君の行動がマズイな……

 ウルガドとの戦闘行為は立派な国家反逆罪だ。

 しかもライル君、なにやら暴走してしまったらしいじゃないか?

 結果的に半魔としての不安定さを露呈してしまった事になり、これでは討伐への同行に懸念の声が挙がってしまうだろう。

 本来であれば俺とゼール殿でうまいこと手を回して穏便にバラす筈だったんだが……

 まさか依頼を貼り出した当日とはな〜〜」


 椅子の背もたれに体重をかけて天を仰ぐイラルド。

 そんな事を言われても、ねぇ?

 だって知らなかったし。

 そんな作戦を立てたなら初めから教えてくれていれば良かったものを。


「なんで俺自身に作戦を教えてくれなかったんですか? 俺も知っていた方が有利に事を運べた筈です」

「君、ゼール殿に魔族として通していたんだろ?

 彼女も俺同様に過去の経験から気づいてはいたんだろうが、君の事情を汲んでくれていたんだろう。

 それにこの作戦を思いついたのは昨日、王も交えた会議で赤龍討伐が決まってからのことだ。

 おまけにゼール殿は今朝も早くから城に招喚され、対赤龍へのアドバイスをお願いされている。

 勿論君には伝えるつもりだったんだが、タイミングも合わず、一日くらいはと油断した俺達の落ち度だよ」


 間が悪い、とはこの事か。

 おそらく、思い描いた作戦自体は悪くない筈だ。

 しかし、露呈した状況がマズかった。

 どうしたものかと唸るイラルドをよそに、扉をノックする音がして外からウルガドの声がする。


「団長、ゼール殿がお見えになりました」

「来たか」


 腕組みを解きつつイラルドが立ち上がる。

 先程までのしおらしい表情は消え失せ、戦いに赴く戦士の顔つきへと変わっている。


「よし! ウダウダ言ってても仕方ない!

 やる事は変わりないんだ、出たとこ勝負だ!!」

「えぇ……」


 未だかつてこんなに頼もしそうに頼りない言葉を発する人がいただろうか。

 ともかく、やるしかない。

 でなければ殺されはせずとも、俺の旅はここで終わってしまうかもしれない。



 かくして、俺達のプレゼン能力が試される。



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