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第二十三話 「露呈」

『Sランクー赤龍討伐ー』


「な、これって!?」


 翌日、ギルドに依頼を受けに行くと掲示板の前に人だかりが出来ており、掲示板には目を疑う内容の依頼が張り出されていた。

 依頼元はロデナス王国、内容は三週間後に龍が巣食うとされる超大山脈グランロアマウンに討伐に向かう冒険者を複数人募集するといった旨のものだった。


「募集期限は二週間……しかもSランク依頼ってことは、最低でもAランクじゃないと受注出来ない……」

「お、おにいちゃん……ルコン達、このままだと……」


 Aランクに上がるどころか、Bにすら上がれていない現状ではどうやっても二週間という期限には間に合わない。

 どうする?


「ひとまず、ゆっくり考えたいから人がいないとこまで行こうか」


 そう言ってルコンを連れて王都市街の外れにある空き地へと向かう。

 王都といっても、町外れまで来ると人気も少なく閑散としている。

 空き地の広さも狭すぎず広すぎずで、依頼が早く終わった日はここに来てルコンと修行をしている。


「それでどうするんですか?Aランクにならないと龍討伐に参加出来ないんですよね?」

「正直、ミルゲンさんにも言われたように今から昇級するのは無理だろうな。父さんは俺がAになれないことは分かっていただろうから、このまま自分は依頼に応募して俺を置いていくつもりだろう」

「そんな……」


 どうにかして討伐隊に参加出来ないか?

 ロデナス王国が依頼元なら直談判、いやそもそもこんな子どもを連れて行く訳も無いか。

 イラルドに頼めば何とかなるか?

 何とか討伐隊に入れないか思案していると、空き地の入口から声が聞こえてくる。


「ほらほら! ね!? いたでしょうとびきり可愛い子が!」

「こりゃほんとじゃねぇか! しかも獣族か? かわいいなぁ〜!」


 なんだこいつら、ルコンが目当てか?

 見たところ13〜15歳くらいか。

 最近ここを出入りしてたから目をつけられたか?


「な、なんですかこの人たち?」

「後ろに隠れてて。何か御用ですか?」

「あぁ!? 男に用はねぇんだよ! そっちの女の子と遊びたいだけですぅ〜!」

「そうだそうだ! お前はどっかいってな!」


 可愛いは罪だね、トラブルメーカールコンよ。

 ま、見たところ一般市民ってところか。

 魔力もさして感じられないし、いつかの奴隷商みたいに争う気配も感じられない。

 穏便に話し合いで――


「邪魔だって言ってんだろ! どきな!!」

「いてッ!?」


 バチッ!と頬を叩かれる。

 こいつら、こっちが下手に出てれば偉そうにしやがって……

 ちょっと怖がらせてや――


「おにいちゃんを叩くなぁぁ!!」

「ぼべッ!?」

「あがッ!?」

「あっ!?」


 俺の後ろから堪らず躍り出たルコンが、二人を弾き飛ばしてしまう。

 しかも、二本セカンドで。

 マズイマズイマズイ! 相手は一般人だぞ!? 死んだりしてないよな!?

 すぐさま駆け寄って見るが、どうやら衝撃でのびているだけのようだ。

 はぁ、よかった……

 ルコンの気持ちは嬉しいけど、しっかり言い聞かせなくてはな。

 妹の躾もおにいちゃんの役目だ。


「おい君達! そこで何をしている!」

「はは、はいぃぃ!? 殺してはいません!!」


 驚きのあまり要らぬ誤解を招くような声を上げてしまう。

 見ると声の主は鎧を着た魔族の人物だ。

 犬、いや狼だろうか?

 凛々しいイヌ科のような見た目をした壮年の男性魔族。

 あの格好はイラルドと同じロディアス騎士団か?


「魔力の高鳴りがあったから来てみれば、喧嘩か? 君がやったのか?」

「あ、えっとその、はい。

 妹に手を出されそうになりまして、カッとなってつい……」

「へ、おにいちゃん? ちがっ」


 余計な事を言われる前にルコンの口を塞いでしまう。

 喧嘩で済むならそれで良し、ルコンには悪いが大人しくしていてもらおう。


「そうか、妹のためにな。

 見たところ種族が違うようだが、まあ色々と事情はあるんだろう。

 こういった喧嘩は少なくない。

 次から加減には気をつけてくれ。

 私はロディアス騎士団第一師団副団長のウルガドだ。コレも決まりでな、身元確認だけ付き合ってくれるか?」

「お安い御用です。ルコンもいいね?」

「は、はい」


 ちょうどそこで伸びていた悪ガキ達も目を覚ます。

 こっちを一瞥すると『ひぃぃ!?』と怯えた様子を見せるが、ウルガドが間に入って事情を伺っている。

 ウルガドは懐から赤く光る小さな魔石を取り出して、二人に渡して何事かを聞いている。

 二人に渡った魔石は赤から青に色を変えていた。


「待たせたな。二人もこの認識石を持って質問に答えてくれるか?」


 そう言ってウルガドは赤く光る魔石をルコンに手渡し、ロディアス在住か、何処から来たのか等を聞いている。

 さっきの悪ガキ達はとっとと退散してしまったようだ。

 それにしても綺麗な魔石だな。

 さっきの悪ガキ達は青色で、ルコンは赤く光ってるから男女で光り方が変わるのかな?


「ふむ、ルコン君は奴隷商に捕まっていたのか……それは大変だったな。

 身元が安定しないのはそういった事情も考慮しておこう。さぁ、次は君だ」


 ウルガドから魔石を受け取り、質問に答えようとする。

 魔石は赤から青に変わっていき……

 いや、赤の内からだんだん青が滲んでいる?

 そうして石は紫色に輝きを放ち出してしまう。

 あれ? さっきまではこんな光り方じゃなかったよな……


「これは……」

「? 故障ですかね?」


 驚きの表情を浮かべるウルガドに問いかけるが、返事は無い。

 ルコンも不思議そうに俺の手の中の魔石を眺めている。

 そして、ようやくウルガドが口を開く。



「貴様、半魔か?」



 ギロリと、鋭い眼光がこちらを向く。

 先程までの理性的な装いとは違い、その顔は完全に肉食獣としての恐ろしさを浮かべている。

 問われた言葉を上手く飲み込めない。

『半魔か?』だと?

 何故バレた? いや、間違い無くこの魔石だ。

 紫の輝きを放つ魔石に目を落とす。

 先程の悪ガキ二人は青、ルコンは赤、つまり男女で輝きが違うと思っていたが、ウルガドは赤だった。

 つまりこの魔石、認識石と呼ばれる物は、人族と魔族で放つ光が変化するということか。

 人族は青、魔族は赤、そして半魔は紫。

 迂闊だった、もっと冷静に判断するべきだった。

 それよりもまずはこの状況だ。

 どうする? 嘘でやり過ごせるか?


「いやいや! 僕は闘魔族です! ほら、額の角だってあるでしょう?」

「そんなものは何の証明にもならん。

 半魔とはそもそも判別が付きにくいから厄介なんだ。それを見極める為の認識石。

 その手で輝く紫の光が何よりの証明だ」


 こちらに一歩詰め寄るウルガドの迫力に押されて、思わずルコンの手を引きつつ飛び退く。

 拍子に認識石は手から零れ落ちてしまったが、気に留める暇は無い。

 今は、こちらへ敵意を剥き出しにしているウルガドから目を離すことなど出来ない。


「投降しろ。

 黙ってついてくれば痛い目に遭うことはない」

「そんなこと言ったって、半魔は禁忌なんでしょう!? 殺されると分かっててついて行ける訳ないでしょう!」

「おにい、ちゃん? へ? 殺されるって、なんで?」

「殺しはしない、がそれは君の態度次第だ。

 お嬢ちゃん、君の兄を名乗るその子は半魔なんだ。

 分かるか? 人と魔のハーフだ。

 半魔はその存在を認められず、厳重に国が管理すべき対象とされている。

 わかったらお嬢ちゃんはこっちにおいで」


 どうする、どうする、どうすればいい!?

 逃げる? 無理だ、直感が告げている。

 大人しく投降する? それでは龍伐に参加出来ない。

 ルコンもいる今、俺に出来る選択はなんだ!?


「さあ、大人しく付いてきてもらおうか」



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