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その日の放課後。
職員室で金村先生から叱られ、反省文を書かされた後、無事に(?)魔法の筒を返してもらった私たちは、帰宅の途に着いていた。
道中、真帆は筒を覗き込み、一人楽しそうに「あれは動かせる」「これは動かせない」と独り言を呟きながら、私と美智の数歩先をふらふらと歩いている。
「……いつものことだけど、楽しそうだよね、真帆」
私が口にすると、美智は、
「真帆は魔法が大好きだからねぇ」
「やっぱ、おばあちゃんの跡を継いで、将来は魔女になるのかな?」
「そうなんじゃないかなぁ?」
「……でも、あんなので、仕事になるのかね?」
「う~ん、どうだろう……?」
普段から魔法を使った悪戯の事ばかり考えている真帆を見ていると、仕事をしているその姿を想像するなんてこと、到底できそうになかった。
きっといつものように、仕事中でさえ、おふざけに走ってしまうに違いない。
見た目はあんなに美人だし可愛いのに、あの自由奔放さが玉に瑕って感じで残念なんだよなぁ、と思っていると、
「――楸さん! 待って!」
突然後ろから呼び止める声がして振り向くと、三年生の荻野先輩がこちらに向かって走ってくるところだった。
ちなみに呼ばれた真帆の方はというと、聞こえているのかいないのか、それともガン無視を決め込んでいるのか、立ち止まったり振り返ったりする様子もなく、筒を覗き込んだまま、あちこちを眺め続けている。
先輩は私たちにちらりと目をやりつつ、けれど相手にするでもなく、真帆のところまで駆けていくと、
「楸さん!」
とすぐ隣に立って声を掛けた。
そこで初めて真帆は筒から眼を離し、
「――はい?」
すっ呆けたような顔を先輩に向ける。
……あぁ、うん。
まぁ、私も先輩の用件はだいたい想像がつくからね、仕方がない。
「今、ちょっといい?」
「ダメです」
即答。
「な、なら、いつなら――」
訊ねる先輩に、真帆は、
「すみません、いつも忙しいもので」
「部活?」
「はい、帰宅部です」
「……え?」
と先輩は目を丸くして、
「えっと、それは……」
「帰るのに忙しいので、邪魔をするならお引き取り頂けますか?」
そう言って先輩をあしらおうとする真帆。
けれど先輩は負けじと、
「い、いやいや! ちょっと待ってくれるだけでいいんだ」
「嫌です」
また即答、取り付く島もない。
先輩も諦めればよいものを、
「ほ、本当に、すぐに済むから!」
すると真帆は少し考えるような仕草をしたあと、
「――時は金なり、ですよ」
「……え?」
と先輩は首を傾げる。
「お話だけは聞いて差し上げます。ただし、あそこで――」
と真帆はすぐ近くのケーキ屋さんを指さしながら、
「何かごちそうしていただけるのであれば」
「あ、あぁ! もちろん!」
嬉しそうに頷く先輩。
でも、悪いけど、多分真帆は――
「ですって!」
と真帆はニヤリと笑いながら、
「先輩が私たちにケーキをおごってくれるそうですよ!」
「――え、えぇっ!」
先輩の顔が青ざめる。
まぁ、私は解っていたけどね。
何せ、これが真帆の常套手段なのだから……