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なんだかんだで一夜が明け、翌日。
昨日はあの後、真帆の強引な勧めにより、アリスはうちに泊まっていった。
「今まで溜め込んできた気持ち、全部言葉にして吐き出しちゃいましょうよ!」
そう真帆は嬉々として口にして、その言葉にそそのかされるように、私とアリスは一晩中、色々な話をして夜を明かした。
今までの事、これからの事、そして、本当にたくさんの気持ちを語り合って――
でも、それをわざわざここで語る必要なんてないだろう。
それこそ、皆さんのご想像にお任せしますってやつだ。
アリスとまた会う約束をして駅で分かれ、私は何とも言えない晴れ晴れとした気持ちの中、いつものように出社する。
「おはよう、平本くん!」
「……おはよう」
そんな私に相反するように、平本くんのテンションは地の底だった。
ど、どうしたどうした?
確かに、いつもパソコンに噛り付くようにして仕事していて、微妙なテンションではあるのだけれど、今日はまた一段と様子がおかしいじゃないか。
「なに? どうかしたの? なんかあった?」
どうせまた、せっかく作ったデータベースを消しちゃった、とかじゃないでしょうね、と思っていると、
「――紗季に、離婚を突き付けられたんだ」
泣きそうな声で、平本くんはそう言った。
「……え、マジ?」
と私は思わず目を見張る。
紗季、あんたまさか、その行動力の高さゆえに、離婚まで――?
「いったい、何があったの?」
「……一昨日の日曜日、家族で出かける予定だったんだよ。でも、仕事が終わらなくて、その予定が潰れて、そしたら昨日、そのことで喧嘩になって――」
「あぁ……」
ってことは、あの翌日か……
これは、やばいなぁ、どうしよう。
紗季、あんたまさか、本気じゃないよね?
思いながら、私はどうしたものかと考える。
私が間に入って、二人をとりなした方が良いんだろうか。
でも、それじゃぁ、根本の解決には至らないだろうし……
う~ん、そうだなぁ……
と、そこでふと、真帆の顔が思い浮かんだ。
なんでこんな時に、と思ったけれど、そう言えば昨夜だって、『言葉』っていう一番の魔法を教えてくれて、私とアリスを繋いでくれたじゃないか。
ちょっといい加減で、適当で、強引なところもあるけれど……
――まぁ、たまにはあの子のこと、信じてあげてもいいかな。
私は小さく頷くと、
「ねぇ、平本くん」
と声をかけた。
「……あん?」
暗い表情の平本くんに、私は真帆のように、にやりと笑んで、
「実はさ、魔法百貨堂っていうお店があるんだけど――」
*ごにんめ・了*