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第8話

   ***


 なんだかんだで一夜が明け、翌日。


 昨日はあの後、真帆の強引な勧めにより、アリスはうちに泊まっていった。


「今まで溜め込んできた気持ち、全部言葉にして吐き出しちゃいましょうよ!」


 そう真帆は嬉々として口にして、その言葉にそそのかされるように、私とアリスは一晩中、色々な話をして夜を明かした。


 今までの事、これからの事、そして、本当にたくさんの気持ちを語り合って――


 でも、それをわざわざここで語る必要なんてないだろう。


 それこそ、皆さんのご想像にお任せしますってやつだ。


 アリスとまた会う約束をして駅で分かれ、私は何とも言えない晴れ晴れとした気持ちの中、いつものように出社する。


「おはよう、平本くん!」

「……おはよう」


 そんな私に相反するように、平本くんのテンションは地の底だった。


 ど、どうしたどうした?


 確かに、いつもパソコンに噛り付くようにして仕事していて、微妙なテンションではあるのだけれど、今日はまた一段と様子がおかしいじゃないか。


「なに? どうかしたの? なんかあった?」


 どうせまた、せっかく作ったデータベースを消しちゃった、とかじゃないでしょうね、と思っていると、

「――紗季に、離婚を突き付けられたんだ」

 泣きそうな声で、平本くんはそう言った。


「……え、マジ?」

 と私は思わず目を見張る。


 紗季、あんたまさか、その行動力の高さゆえに、離婚まで――?


「いったい、何があったの?」


「……一昨日の日曜日、家族で出かける予定だったんだよ。でも、仕事が終わらなくて、その予定が潰れて、そしたら昨日、そのことで喧嘩になって――」


「あぁ……」


 ってことは、あの翌日か……


 これは、やばいなぁ、どうしよう。

 紗季、あんたまさか、本気じゃないよね?


 思いながら、私はどうしたものかと考える。


 私が間に入って、二人をとりなした方が良いんだろうか。


 でも、それじゃぁ、根本の解決には至らないだろうし……


 う~ん、そうだなぁ……


 と、そこでふと、真帆の顔が思い浮かんだ。


 なんでこんな時に、と思ったけれど、そう言えば昨夜だって、『言葉』っていう一番の魔法を教えてくれて、私とアリスを繋いでくれたじゃないか。


 ちょっといい加減で、適当で、強引なところもあるけれど……


 ――まぁ、たまにはあの子のこと、信じてあげてもいいかな。


 私は小さく頷くと、

「ねぇ、平本くん」

 と声をかけた。


「……あん?」

 暗い表情の平本くんに、私は真帆のように、にやりと笑んで、



「実はさ、魔法百貨堂っていうお店があるんだけど――」





*ごにんめ・了* 



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