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結局、瓶底眼鏡をどうするか、俺は考えあぐねていた。
あの女店主にまたしても押し切られるような形で受け取ってしまったが、実際にお見合いの時に使うかどうか考えると、その見た目の悪さにちょっと掛けるのを考えてしまう。
俺は会社の机の上にその眼鏡を置いたまま、じっとそれを見つめた。
はてさて、どうしたものか。
ここまでくると、なんかもう、恋愛とかどうでもよくなってきたんだが……
とはいえ、せっかくのミキちゃんの紹介だ、このまま最後まで付き合わねばなるまい。
それにしてもあの女店主、結構やることがいい加減というか何というか……
指輪にしろ、香水にしろ、眼鏡にしろ、だいたい押し切るように接客してくるんだよなぁ。
あんなので商売として成り立っているのか、不思議でならん。
まぁ、顔は良いし、案外それで得た固定客が結構居るのかも知れない。
明日からしばらく留守にするってのも、もしかしたら、そういった関係で知り合った男とどこか旅行にでも出掛けるとか、そんなところだろう。
「……ふんっ」
そう思うと、何だか急に胸がもやもやしてきた。
人の気も知らないで、大層な奴だ。
何を考えているのか解らないし、たまに馬鹿にするように笑いやがるし――
なんか、どんどんイライラしてきたぞ。
そんなことしてないで、もっとまともに接客しろってんだ、まったく。
俺は眼鏡に手を伸ばし、あの女の顔を思い浮かべる。
大きなため息を一つ吐いて、その眼鏡を、スーツのポケットに突っ込んだ。