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ヤバイ、マジヤバイ、こりゃヤバイ、絶対ヤバイ!
わたしは遅刻して先生に怒られて、授業中も心ここにあらずで怒られて、神楽君に話しかけられてもそれどころじゃなくて|(神楽君はあてにしてない)、そして放課後、足早に学校をあとにすると再び小学校へ向かった。
恐る恐る正門から中を覗き込むと、どうやら一年生はとっくに帰ってしまったらしく、窓の向こうの教室は二クラスとももぬけの殻、どうかすると児童館の周りで駆けまわって遊ぶ一年生や二年生の姿があった。
はわわわわ、これ確実に空白公園に向かってるわ!
慌ててわたしも空白公園のある近くの山に向かった。
間に合え、間に合え、間に合え!
そう願いながら駆けに駆けて――
「……はれ?」
気づくと、空白公園のある山を通り越していた。
っととと。危ない、行き過ぎてた。
振り返り、もう一度山に向かって全力疾走して――
「……え、うそっ、なんでっ?」
また、山を通り越す。
……なにこれ、どゆこと?
どうして山に向かってるはずなのに気づくと通り越しちゃってるわけ?
わけわからん。たぬきか? きつねか? それとも天狗にでも馬鹿にされて――じゃない、化かされているのか?
と戸惑っていると、
「――ミャオン」
突然足下から鳴き声がして視線を落とすと、そこに一匹の黒猫の姿があった。
まん丸い瞳が私を見上げ、もう一度「ミャオン」と小さく鳴く。
この真っ黒い身体、凛々しいお顔。
間違いない、真帆さんのところの黒猫だ。
黒猫は私に背を向けると、二、三歩歩んでから再びこちらに顔を向け、「ニャー」と低く鳴いた。
「ついて来いってこと?」
「ニャ」
お、返事した。前々から不思議な猫だと思ってたけど、やっぱり魔女には黒猫って感じで使い魔か何かなのかな?
ま、そんなことより、今は「ついて来い」って言ってんだから、素直についていってみよう。
黒猫はすたすたと山の方へ歩き出した。
やがて道は空白公園へと続く階段に辿り着く。
……ふむ。間違いない。多分、真帆さんが何か魔法を使っているのに違いない。
そう思って辺りを見回してみたけれど、どこにも真帆さんの姿は見当たらなかった。
あるいはもしかしたら、どこか陰に隠れて戸惑う私を見てぷぷっと笑っているのかもしれない。
――あの女、絶対許さん。
なんて思っているうちに階段を登り切り、開けた場所に出る。
空白公園。
だだっ広い敷地には点々と遊具が設置されているけれど、基本的には何もない広場だ。
昔はよく幼稚園や小学校の遠足とかでここまで来たっけ、懐かしいわぁ。
そんなだだっ広い広場の真ん中に、
「……いた!」
わたしは思わず口にしていた。
美少年と大柄な少年が二人向き合い、お互い睨みを利かせている。
一触即発といった雰囲気で、今にも大喧嘩をおっぱじめようじゃないか! って感じだ。
美少年の手には、昨日真帆さんが渡した土人形が握られている。
あれを割ったら、超巨大人食いカラスが召喚されるとかなんとか……
と、止めなきゃ!
わたしは思わず駆けだした。
けれど、
「オアー!」
突然、黒猫が地を蹴って跳んだかと思うと、わたしの胸めがけて体当たりを喰らわせてきたのである。
「――ぷぎゃっ!」
その衝撃にわたしは後ろによろめき、どんっ! と派手に尻もちをついてしまう。
い、痛い!
「な、なにすんのよ、あんた!」
わたしは当然のように黒猫に怒りをぶつける。
それと同時に、
――ぱりんっ!
はっとして顔を向ければ、そこにはあの土人形を地面に叩きつけた美少年の姿があって。
「あぁ――!」
砕け散った土人形の中から、モクモクと黒い雲が上空に立ち昇っていく。
大柄な少年はそれを見て驚き、あと退った。
美少年はというと――やっぱり驚いた様子で雲を見上げている。
やがて上空で一塊になった黒い雲は急激に収縮して真ん丸い球状になって、
――ボォンッ!
「…うわぁ、出たよ、マジで出たよ……」
真帆さんの言葉通り、超巨大人食いカラスがお出ましになられたのだった。