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第6話

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 結局押し切られるような形で調……薬?とやらを受け取った俺は、またも帰宅時に深夜までやっているスーパーに立ち寄っていた。


 あんなふうに言われてしまっては、他に言い返しようがないじゃないか。


 嫁との喧嘩と一緒だ。


『私がそう思っているから、そうなんだ』と言われているようなものだ。


 そうなったら、最早何を言ってもこちらの声や意見は耳に入らない。全拒否だ。


 俺は深い溜息を吐きながら、さて何を作ったものかと悩みつつ、店内を徘徊した。


 そもそも、普段料理をしない自分に作れる料理のレパートリーなんて、高が知れている。


 大学生の頃だって自宅から通っていたから料理なんてしたことはなかったし、就職してからは会社に言われるがままあちらこちらへ転勤していたが、結婚するまでの数年間、夜はコンビニか、或いは同僚や上司、取引先との付き合いで外食してばかりだった。


 そんなまともに包丁すら握ったことの無い俺が結婚したばかりの頃、嫁を手伝おうとして逆に「足手まといになるから大人しくテレビでも見ていてほしい」と言われたのはなかなかに情けない思い出だ。


 それほど俺の腕前は信用に足らなかったらしい。


 それでも結婚した以上は何かをしたくて、一度か二度、カレーを作ってみたことがあった。


 不器用ながらも何とか作ったそれを、嫁は美味しいと言って食べてくれた。


 最後に作ったのは、もう何年前のことだろう。


 次第に忙しくなっていく仕事に、俺は家事を手伝うこともなくなっていった。


 朝仕事に出て、夜遅くに家に帰り、休日も返上、という毎日の繰り返し。


 まともに体を休めたという記憶もない。


 息子とどこかへ出掛けたり遊んだのだってもう何年も前、もしかしたら幼稚園に入園した時が最後なんじゃないだろうか。


 これじゃあ、家族と言えるのかどうか……


 何とも言えない焦燥感に駆られながら、結局はカレーの具材を買って俺はレジへ向かう。


 暗い夜道をトボトボと歩きながら帰宅すると、やはりいつものように廊下には灯りが灯っていた。


 子供部屋を覗き、次いで寝室を覗く。


 二人とも当たり前のように眠っており、俺は誰にともなく「ただいま」と呟き、今し方買ってきた具材でカレー作りに取りかかった。

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