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第20話【決闘〜元ヒキニート、奮闘する〜】


 家の形や場所は、住む者によってそれぞれ変わる。

 人間なら出来るだけ平坦で移動のしやすい場所に作りたいと思うし、動物なら木の上に巣を作ったり、あるいは地面に穴を掘ってそこで生活する者もいるだろう。


 俺たちが今訪れているエルフ族の家も、人間のものとは少し異なっていた。


「すっげぇ……!本当にこうやって生活してるのか……!」

「まるで異世界みたいね!」


 いや、まるでって言うか異世界なんだが。

 目をキラキラさせながらそう言うみさとに頭の中でツッコミを入れる。


 俺たちはあれから木の鳥居の様な物の下に立っていた見張り役のエルフに連れられて、今は長の所まで案内されている途中だ。


 それで目前に広がるエルフたちの町を見た訳だが――これは凄い。


 まず、俺たちが住んでいる家とは異なり、地面に建物はほぼ無く、ほとんどがツリーハウスの様な感じになっていて、それが空中にかかった橋で繋がれている。

 これはおそらく森の中だから、モンスターが家に入って来ない様にだろうな。


 そして家の材質は、俺たちは石の建物が多いのに対して、こっちは木と葉オンリーだった。

 こりゃ火事になったら終わりだろう。


 そんなことを考えながら歩いていると、どうやら目的地に着いたようで、先頭を歩いていたエルフは止まり、こっちを振り返るとこう言った。


「長の家はここです。さぁ、私が先導するのでギルドのお姉さんと、オーガを倒した方のみ着いてきて下さい。」


 なるほど、やはり村の長ともなると会う人間は絞られるんだな。

 まぁそれも当然だろう。仮に長と会った時に俺たちが全員で攻撃を仕掛ければ、それを殺す事なんて簡単だ。


 まだ完全には信用されてないって訳だな。

 もっとも、そんな事絶対にしないが。


「分かりました、さ、とうま様、行きましょう。」

「あ、あぁ。――」

「ん?なんだ?頑張って来いよ?」


 俺はお姉さんの声に答えながらも本当にオーガを倒したエスタリの方を凝視する。

 しかし、エスタリは何が何だか分かっていない様子で、首を傾げながら応援のセリフを吐くだけだった。


 たく……本来お前が俺の立場に立ってなきゃいけないんだぞこの野郎……!


「はぁ……」


 俺はそう文句を吐く気力すら湧かず、脱力仕切った口からため息を漏らし、お姉さんと共にエルフの背中を追い始めた。


 ---


 それから俺とお姉さんとエルフ3人で建物の入り口へと続く木に沿って造られた螺旋階段を上がって行き、扉の前へとたどり着いた。


「じゃあ開けますね。この先には長がいらっしゃいますので、礼儀正しくお願いします。」

「分かりました。」「お、おう……」


 事前にそうやって念を押されたら変に緊張するじゃねぇか……

 そんな俺にお構い無しで、エルフは扉を開ける。


「どうぞ、お入り下さい。」

「失礼します。」「し、失礼します……」


 俺とお姉さんは建物の中に入る。

 そこは長の家にしては広く無く、大学生が住んでいそうなアパートの一室、それくらいの大きさだった。


 そして、その部屋の真ん中にはひとつの椅子があり、そこにひとりの老人――いや、老エルフが杖を片手に座っていた。


 ん?てっきりあんな念を押すくらいだから恐ろしい人物なのかと思っていたが――

 俺は目の前で座る優しい笑顔の老エルフの顔を見ながらどこか拍子抜けした。


「おぉ、お主が森に居たオーガを倒した戦士かの?」

「は、はい。そうです。」

「そうかそうか、本当にありがとう。」

「い、いや、とんでもないです。仕事なので……」


 俺は片手を握って感謝を述べてくる老エルフに萎縮仕切っていた。

 なんだこれ……すごく不思議な感覚だぞ……


 この人とこうやって言葉を交わすと心が浄化される様な、そんな感覚がする――きっとこの一族を1から繁栄させたんだろうな。

 そう思ってしまうような、そんなパワーを感じるぜ……


「本日はお招き頂き誠にありがとうございます。早速ですが本題の方に――」

「おぉ、そうじゃったそうじゃった。」


 すると、そんな老エルフにお姉さんがそう言葉を掛けると、老エルフは何かを思い出したかの様にそう言い、掴んでいた俺の手を離す。


 そこから老エルフとお姉さんの、難しい話し合いが始まった。


 正直俺は途中で度々相槌を挟む程度しか発言をしていないが(というか俺みたいなバカが発言していい空気じゃ無かった)話の内容はほとんどが事前に知っていた事のみで、決闘をする事を了解したり、それのルールを決めたりとそんな感じだった。


 そしてその会話も10分程で終わり――


「よし、じゃあこれから、決闘をしてもらおうかの。」

「そうですね、準備は大丈夫ですか?とうま様。」


 とうとう俺がエルフと決闘をする時が来た。

 準備は大丈夫ですかって言われても、準備も何もねぇだろ。

 まず相手がどんなやつかも知らないのによ。

 だがまぁとりあえず、


「お、おう。」


 お姉さんにかっこ悪いとこは見せられないから出来るだけの笑顔でそう答えたよ。


 ---


 それから俺とお姉さんは螺旋階段を降りると、下で待っていたみさとたちと合流し、決闘を行う場所へエルフの案内の元、歩き始めた。


「ここです。」


 少し歩いたところで、案内役のエルフが足を止めるとそう言う。

 そこは、木々に囲まれた小さなグラウンドだった。


 半径10メートルと言ったところだろうか、ちゃんとした仕切りは無く、そこだけ草が生えておらず学校の運動場の様になっている。周りに生えた木がおそらくそれをだいたい仕切る目印だろう。


 そしてそのグラウンドにひとりの男エルフが立っていた。


「あいつが今回の対戦相手か?」

「はい、そうです。このエルフ族の中では勢いが今一番ある戦士ですよ。」


 そこに立っていたエルフは案の定今回の俺の対戦相手らしく、俺たちが見ている事に気づいたのかこっちを向くとさっきからしていた準備運動を止め、爽やかな笑顔でペコッと頭を下げてきた。


 うぅ……あの爽やかな顔、んでもって引き締まった細いボディ――明らかに俺より(色々と)上だろあれ……


「おいおい、ありゃまずいんじゃないか?」

「うん……これは勝てないわね……」


 おい!なに戦う前から諦めてんだコイツら!

 俺はそんなに心細いかよ!


 そんなこんなであっという間に時間は過ぎ――決闘の時間になった。


「では、これからオリアラの森使用権を賭けて決闘を行っていただきます!!」


 周りからの拍手の音が一気に飛び込んで来る。

 やっべぇ……めっちゃ緊張してきた。


「とうまー!絶対勝つのよ!」

「とうま様!頑張って下さい!」

「お前ならやれるぞ!多分!」

「多分ってなんだよッ!」


 はぁ……戦う前にツッコミを入れてしまったじゃないか。

 ちなみに俺は今、1本の木の剣を持っている。

 ここでルールを簡単に説明しておくと、制限時間は無し、先にこの木の剣で先に一撃を入れた方の勝ちっていう単純なやつだ。(何本先取とかがある訳でもない)


「では、開始の合図を致します……」

「……ッ!」「……ッ!」


 審判のエルフがそう言った瞬間――周りの人たちは静まり返り、俺は相手のエルフを睨みながら剣を持つ手に力を入れる。


「始めッ!!」

「はぁぁぁぁ!!」


 開始早々、いきなり動いたのは相手のエルフだった。

 地面を強く蹴り、一瞬で俺との間合いを詰めてくる。

 そして、目にも止まらぬ速さで最初の斬撃を繰り出してきた。


「くッ!?」


 あ、あぶねぇ!何とか防ぐ事は出来た……!

 そしてここから何とか反撃したい……!


「やぁぁぁ!!」


 俺は相手を後ろに突き飛ばすと、剣を振りかぶって――それをすぐに振り下ろすッ!!――が、


「甘いです――よッ!」

「ぐはぁ!?」


 相手はすぐに綺麗なバックステップでそれを回避。更にその反動を利用して再び間合いを詰めてくると、俺の腹部に蹴りを入れてきた。――って……!


 こ、こいつ……!マジで早い……!

 正直最初の攻撃から全然追えねぇ……!

 しかし――そんな俺を相手は待つはずが無い。


「これで決めますッ!!はぁぁぁぁ!!」


 相手は剣を構え直すと、そう叫びながら俺の方へ走り、剣を振り下ろす。

 しかも、今回は一撃だけでは無く、俺がいくらガードしても何度も何度も、休むことなく斬撃を放って来た。


 カンカンカン、木と木が強くぶつかり合う音が聞こえる。


「はぁはぁ……!」

「はぁぁぁぁ!」


 これは本当にやばい。

 さっきから何とか寸前のところで防いではいるが――おそらくこれも時間の問題だ。


 俺はもう……諦めかけていた。

 まず、俺なんかがずっと鍛えてるエルフなんかに勝てる訳無いんだ。

 そもそも、俺はオーガを倒していない。


 もう、ダメだ……

 手に入れていた力が抜けて行く。

 相手が剣を力いっぱい握って振り下ろしてくる。

 あぁ…………


「上からの斬撃!!右に避けてッ!!」

「!?」


 そんな俺の耳に飛び込んできたその声は、みさとが発した物だった。

 な、何言ってんだよあいつ!?でもとりあえずは従うしかない……!


 今のセリフで我に返った俺は、足に力を入れて言われた通りに右へ身体を動かす。


「おらッ!」


 すると――みさとの言った通りに攻撃を避ける事が出来た。


 そうだ……!みさとはユニークスキルの力で相手の心を読むことが出来るから、どんな攻撃をして来るのかも分かるのか!


「上半身を狙った左からの斬撃!!」

「右足を狙ってる!!」

「頭を狙った上からの攻撃!!」


 そこからみさとは、相手が攻撃をする度にそう叫んだ。

 これには流石の相手も混乱していた。当然だ。観客の美少女が突然自分のしようとしている行動全てを読んできているんだからな。


 正直――こんな形で勝つのは相手に申し訳ないという気持ちもあるが……俺は負けられないんだ!!


「とうま!次にデカいのが上からくるッ!」

「おうよッ!」


 ここで決めるッ!!


「はぁぁぁぁ!!」

「おらぁぁぁ!!」


 パコーンッ!!

 その瞬間、そう木が頭に激突した音が森に鳴り響き、観客たちから声が上がった。

 そして――その光景を見て審判のエルフが一言、


「この勝負、冒険者側の勝利ッ!!」

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