武器屋に行った翌朝。
俺たちはいつもと同じようにウェーナの家(ここまで来たらもう俺たちの家と言っても良いかもしれないな)を出ると、冒険者ギルドへ向かっていた。
昨日はこの世界での初めての休日で、冒険者ギルドには行かなかった訳だが、こうやって1日でも日が空くとなんかめんどくさくなるよな。
学生時代、ズル休み常習犯だった俺はよくこんな気持ちになっていたよ。これ、分かってくれるやつもいるはずだ。
「――ん?どうしたのとうま?いつもの顔も酷いけど、今日は一段と暗いじゃない。」
「あぁ、1日休みがあったからなんか依頼するのがしんどいなって思ってたんだよ。お前らもあったろ?休みが挟まれたら学校がダルくなる的なさ。」
なんかみさとが今ものすごく失礼な事を言っていた気がするが――まぁ、見逃してやるとするか。
俺は先程思っていた事と同じ様な内容を口にする。
すると、俺の発言を聞いた3人は、全員が驚いた様な表情をしてこう言った。
「え?私はダルいなんて思った事なんて一度も無いわよ?」
「あぁ、私も同じ意見だ。」
「うん、学校は楽しいもんね!」
はぁ?コイツらはさっきから一体何の話をしてるんだ?
まさかとは思うが、俺の「学校ダルい」発言に対しての返しじゃ無いだろうな?
仮にそうだとしたらコイツら、タダのドMじゃねぇか。
「楽しいぃ?学校がか?フッ、あんなのただの地獄だろう。」
俺は手で片目を隠し、もう片方の手を腰に当てるとポーズを決めながら超絶イケた声でそう言う。
すると、3人はそんな俺を完全に無視すると、嘲笑うかの様に目の前で会話を繰り広げ出す。
「学校楽しいわよね!」
「だよな!友達とプリクラとか良いよな!」
「うんうん!カラオケとかね!」
こ、コイツらなぁ……
確かに初めて会った時から俺みたいなヒョロガリ野郎とは釣り合わな過ぎると思っていたが――目の前で陽キャたちの話し合いを聞かされると、高校生活永遠ボッチ+2年で中退の俺はこう叫ばずにはいられなかった。
「こんの、リア充共がァァァッ!!!」
テンションが低い朝、美少女たちに格の違いを見せつけられた俺であった。
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「おっすー」
冒険者ギルドの扉を開けた俺は、片手を上げながらそうギルド内の冒険者たちに挨拶をする。
前までは最低等級の雑魚パーティーだったが、エスタリたちと共に戦い、オーガ討伐を成し遂げ、そして等級も上がった俺は少し調子に乗っていた。(さっきイライラする出来事があったからそれの気晴らしってのもある。)
普通、漫画とかだとこういうシーンでそんな調子に乗る主人公の天狗になった鼻を折る猛者とかが出てくるよな。「そんな程度で調子に乗るなよクソガキが」的な感じでよ。
だが、ここは漫画の世界では無く、異世界ではあるが現実だ。俺の挨拶を聞いた冒険者たちは――
「お!期待の新人!おはよう!」
「聞いたぞ!オーガを討伐したんだってな!」
そんな具合いに、挨拶を返してくれた。
フッ、良い気分だぜ。この感じでお姉さんにも挨拶をかますとしますか。
俺が言うお姉さんと言うのは、分かると思うがこのギルドで受付娘をしている金髪ボブの美女の事だ。
俺は3人を引き連れて受け付けカウンターまで歩くと、肘をカウンターに置き、出来るだけのイケボで挨拶をする。
「よッ、お姉さん。今日も可愛いな。」
「――あ!皆様!お待ちしておりました。」
「……おはよ」「おはよう」「おはよ!」
俺の後で挨拶をした後ろの3人が若干引いている様な気もするが――まぁそんな事は置いておくとして、聞いたか?今の!
「お待ちしておりました。」だってよ!
ほらなお前ら?俺の事をただの気持ち悪いエロゲーマーだと思っていたかも知れないが、それは間違いだ。
今の俺は今までとは違う……「スーパーとうま」だぜッ!!
「どうしたんだ?俺の事を待ってたんだろ?」
「はい、実はある一通の手紙が届きまして――」
「ん?手紙?」
「はい、近くに住んでいるエルフ族からです。」
「はい?エルフ?」
俺改めスーパーとうまは、お姉さんが口にした「エルフ」という言葉が耳に引っかかる。
一瞬「まさかエルフにも俺のファンがいたのか」なんて考えも出たが――流石にそれは無いだろう。
というか、この話、あまりふざけない方が良いかもしれんな。
俺は喉に負担を掛けながら出していたイケボを辞めると、いつも通りの声でその手紙の詳細を尋ねる。
「そこにはどんな内容の事が書かれていたんだ?」
「はい、それはですね――――」
お姉さんが言った内容を簡単にまとめるとこうだ。
まず、手紙を出してきたのは先日俺たちがオーガを討伐したオリアラの森の更に奥に住むエルフ族で、「オーガを倒してくれてありがとう」そんな感じの内容がほとんどだった。
これだけならば俺の天狗の鼻が更に伸びるだけだったのだが、問題はここから。
実は以前からこのエルフ族と、この町、ラペルでオリアラの森を使用する権利を争っていたらしい。
最近は冷戦が続いており、冒険者たちも普通に依頼をしていたらしいのだが、この際決着を付けようとの事。
そしてその決着の付け方なのだが……
「本当に俺がやらなくちゃいけないのか……?」
俺は恐る恐るお姉さんにそう聞く。
その声色には、先程の「スーパーとうま」の面影は何処にも無かった。
今ダサいって思ったやつ。とりあえず話を聞いてくれ!
なんと決着の付け方はエルフの代表とこっちの代表が決闘をし、勝った方が森の権利を手に入れるという物なのだが――冒険者側の代表は俺だというのだ。
マジで一体なんでなんだよ!?
「はい、手紙では森で偵察していたエルフが、とうま様がオーガのツノを持っているところを見たと書かれていますので……」
「ツノだと?そんなの持って――ッ!?」
そこで俺は思い出した。
討伐した証の為にエスタリが切り取ったツノを、記念に持たせて貰った時の事を。
おそらくその偵察していたエルフはちょうどその場面のみを見ていて、俺がオーガを倒したと勘違いしているのだろう。
クッソ!なんであんな事したんだ俺!
大体オーガ討伐をしたって言っても俺はエスタリたちの足を引っ張ってただけだし、決闘なんて勝てるはずが……
だが、こうなってしまった以上、断る事は出来ない。
ここで俺が怖いからという理由で断ると、冒険者たち全員に迷惑を掛けてしまうからだ。
ヒキニート時代に色んな人たちに迷惑をかけてきた分、この世界では迷惑をかけたくないんだよ俺は。だから――
「……分かった。俺がやるよ。」
いつも物事を任せられた時にする苦笑いをしながら、お姉さんに向かってそう言った。