地面に倒れ込み、オーガに手で叩き潰されそうになっていた俺を寸前のところで横に押し倒し、助けたのはなんと一週間前に知り合ったパーティーのリーダー、エスことエスタリだった。
って、な、なんでこいつがこんなところにいるんだ!?
まさかこいつもワーウルフを……?いや、おそらくだがこいつは俺よりも等級が上のはず……
――だが、今はそんなことを考える必要は無いだろう。
どんな理由でここに居たとしても、今俺を助けたという事実は変わらないからな。
「すまん……!助かった!」
「いや、礼なら帰ってから好きなだけ貰ってやる。今は目の前の化け物に集中しろ。」
「……ッ!」
俺はエスタリから視線をオーガに移す。
オーガはというと、俺を潰し損ねた事など全く気にしていないようで、再び手を振りかぶって攻撃してこようとしていた。
――とりあえず、まずはこの攻撃を交わさないとな。
俺は立ち上がると、後ろにバックステップをしようとする。
しかし、そうする前に――
「グォォォォ!?」
オーガはどこからか飛んできた矢が左頭に刺さり、右によろけた。
「エス!!自分だけ早く行かないで!」
「無事ですかな!」
「すまねぇ!助かったぜ!」
「ま、マジか……!」
そこでエスタリに続いて登場した助っ人は、同じく一週間前に知り合ったパーティーのメンバー、弓使いのオネメルと、龍人のヒルデベルトだった。
そう、今オーガをよろけさせたのはオネメルだったのだ。
「グォォォォ……」
オーガは頭に刺さった矢を引き抜くと、地鳴りのような唸り声を発しながらゆっくりと立ち上がり、俺たちを睨む。
さっきまでの俺なら恐怖と絶望で足をガクガクに震わせて、小便でも漏らしているであろう光景だ。
しかし、今はさっきの絶望的な状況では無い。
「さぁ……!やるわよ!」
「援護は任せてくだされ。」
「やるぞ!」
他のパーティーと共に戦っているのだ。
この勝負……諦めるにはまだ早かったって訳か……!
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「とりあえず、剣使いの俺ととうまが前に出るぞ!」
「分かった……!」
「じゃあ私は援護射撃するわ!」
「では我はとうま殿のお仲間様をお守りしますぞ。」
そうだよな……俺だって今はこいつらと一緒に戦ってる冒険者なんだ、どっちが強い弱い関係なく、立ち向かっていかないと……!
「じゃあ行くぞ!」
「……あぁ!」
俺は足に力を入れると、エスタリと共にオーガの方へ突っ込んで行く。
「グォォォォ!!」
それに対して当然、オーガは手を振りかざして俺とエスタリを叩き潰そうとする。
しかし、今回は先程とは違う、俺たちは2人なんだ!
「とうま!オーガの気を引き付けてくれ!」
「……ッ!分かった!」
俺とエスタリは互いに違う方へ走ると、こっちに意識が向くように大声でオーガを挑発する。
「おい、バカオーガ!こっちだこっち!」
「グォォォォ!!」
すると、知能の低いオーガは大きな音を発した俺の方に狙いを定め手を振り下ろしてきた。
って!?おいおいこれじゃただエスタリが攻撃されなくなっただけじゃねぇか!?
しかし、オーガの攻撃が当たりそうになった瞬間――
「もらったぁ!!」
「グォォォォ!?」
ザグリ、肉が引き裂かれたかのような鈍い音と共に、オーガが悲鳴を上げながら横へ倒れた。
するとそれに続けてオネメルが高く宙に飛び上がり、矢を即座に三本放つ。
そしてそれは全て身体に命中。
オーガは更に悲鳴を上げ、手を膝に着くと、初めて苦しそうな表情をした。
「ナイスだオネメル!」
「当然よ!」
さすが、先輩のコンビネーションは凄いな。
凄いよ、凄いんだがよぉ……俺の出番は!?
今俺がしたことってオーガの気を引かせただけなんだが!?
まぁだが、今のオーガの様子を見れば分かるがおそらくあと一撃頭にでも剣をぶっ刺せば倒せるだろう。
(やってやるとするかね……!)
「最後は俺に任せろぉぉ!!」
俺は剣を振りかぶると、はぁはぁと荒く息を吐くオーガに目掛けて走って行く。
「お、おい!まずは様子を見てから――」
「ちょっと!」
エスタリとオネメルはそう俺に声を掛けるが――流石にこれは俺でも分かるぜ……!
こんなに苦しそうな表情をしているモンスターが、ここから反撃出来る訳が無い!
「もらったぁぁ!!」
俺はオーガに対してそう叫びながら剣を振り下ろす。
しかし、その瞬間――
「グォォォォ!!」
「な、なんだってんだ!?」
オーガはいきなり咆哮を上げ、
っておい!?そんなのありかよ!?
だが、そんな俺にお構いなしで、オーガは肩に担いだ木を横に振り回そうとする。
「や、やばい!?」
「とうま!!しゃがんだら避けられるわ!!」
「……え!?」
「早く!!」
その瞬間、俺の後方からそうみさとの声が聞こえた。
なぜ今いきなりそんな一か八かなことを叫ぶのか俺には理解出来ないが――アイツは付き合いは短くても大切な信頼している仲間だ。
それに――今はどうするかなんて考えてる場合じゃねぇ!
俺は神様に避けられることを願いながら、その場にしゃがみこむ。
するとその瞬間、俺の頭の上を木が勢いよく通り過ぎて行った。
ど、どうなったんだ……?
恐る恐る顔を上げると、そこには重い木をフルスイングした反動により、地面に尻もちをついているオーガの姿があった。
よ、良かった……!何とか避けることが出来た見たいだ。
するとそこで、
「はぁ、ストーンブラスターッ!!」
俺の後ろにいるヒルデベルトがそう叫ぶ。――途端、幾つもの宙を浮いた石がもの凄いスピードでオーガを直撃した。
そして更に、
「はぁぁぁぁ!!」
石の雨を食らったばかりのオーガの頭にエスタリが剣を突き刺す。
するとその瞬間オーガは、「グォォォォ!?!?」
今までとは比にならないレベルの悲鳴を上げ、完全に動きを止めたのだった。
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その後、俺はオーガを討伐した証として、頭に生えているツノを切り取っている途中のエスタリに、なんでこの森に居たのかという事を聞くと、どうやらコイツら、俺たちが冒険者ギルドを出発した時からこっそりつけて来ていたらしい。
「いや、暇人かよ!!」俺はそんなエスタリたちにそうツッコミかけたが、すぐにそんな言葉はひっこめた。
俺たちはコイツらがいないと、あそこで絶対に死んでただろうからな。
それに、オーガのツノを持たせてもらったし?
あの時はなんか覇者の気分になったぜ!
あ、そうそう、なんであの時みさとが俺にあんな指示を出したのかと言うと、みさといわく、ユニークスキルでオーガの気持ちを読んだら、しゃがめば避けられる場所を攻撃しようとしていたから。との事だ。
あいつのユニークスキルってモンスターにも通用するんだな。まじすげぇぜ。
ってな訳で、今こうやって俺が話せているのは周りのおかげって事だな。
それで今はというと、ちょうどエスタリたちと冒険者ギルドに帰って来たところだ。
「今帰った!」
「おかえりなさい――って!?どうしたんですかそのツノ!?」
「ちょっとな、」
「ちょっとなって!?」
ギルドに入った俺たちを見た受け付けのお姉さんは、まるで悪魔でも見たかのような声で酷く混乱する。
エスタリのやつ、説明下手過ぎだろ。
「おいエス、ちゃんと説明しろよな?」
「話すのは苦手なんだが……まぁ仕方ない。実はな?このツノは――」
こうして俺たちの昇級クエストは終わったのだった。