「よし、じゃあ帰るとするか。」
「あー疲れたわ!」「いい汗かいたぜ!」「うんうん!」
俺たちは各自自分の武器をしまうと、森の入り口の方へ歩いていく。
ふぅ、昇級クエストって、意外と簡単なもんなんだな。
するとそこで――
ドンドン……ドンドン……
森の奥から、何かが近づいてくる音が聞こえてきた。
ん?なんだ?まさかまだ森の中で居るワーウルフの群れでも来たのか?
だとしたらこのままで帰る訳にも行かないな。
これで他のモンスターも倒せばプラスで貰えるかもしれないし!
俺は3人にこの事を伝えようとする――が、その必要は無いようで、音に気づいていた3人は全員武器に手をかけていた。
よっしゃ!じゃあ最後にもういっちょ!やりますかね。
俺は背中に収めたばかりの剣を握り、再び構えると音のする後ろへ振り向く。
するとそこには――
「な……!?」
「ちょっと……」「まじかよ……」「やばいよ!?」
今思い返してみれば、聞こえた足音はどう考えてもワーウルフのような小さいモンスターの音では無かった。
くそ……!何が「ワーウルフの群れ」だ!浮かれてたのか、俺。
だが、こうなった以上、この現実と向き合わなくてはならない。
しかし、どうすれば……
自分の頭で考えるが――なかなか良い案は出てこない。
最初みたいに走って逃げるか?――いや、あの時逃げ切れたのは町の周りにある結界魔法のようなもののおかげだった。そしてそれは森の周りには無い。
なら前みたいに俺のユニークスキルで――いや、これはもう使ったことがある以上、相手も覚えているかもしれない、あまりいい案とは――あぁ、くそ!じゃあどうすれば良いんだよ!
頭を抱える俺、しかしこうしてる間にも、オーガの足音はちかづいてきている。
そんな焦る俺に、みさとはいつもの声でこう言った。
「とうま、こうなった以上、やるしかないでしょ?」
「ほ、ほんとに言ってるのか……?」
「こんな土壇場な場面でほんとじゃない意見なんて吐かないわよ。」
「何言ってるのよ」そう笑い飛ばすように言うみさと。
くッ……でも、ここであいつとやり合えば……
待って居るのは――死。
分かってる。分かってるんだ。
冒険者って仕事は常に死と隣り合わせって事は。
でもよ――実際にこうなったら……怖くて仕方ねぇよ。
でも……だからって理由で俺だけ逃げる訳には行かない。
俺以外の3人だって同じくらい怖いはずだ。
でも、この脅威に立ち向かおうとしている、もうこの手しかないから。
「――くそが、やってやるよ!!」
「その意気よ!」
「とうまは常にそんな感じだったら良いのにな〜」
「おいちなつ!余計だぞそのセリフ!」
「よし!私も頑張るよ!」
俺たちはいつものように他愛も無い会話を繰り広げる。
もしかしたら全員が心のどこかで、(こんな会話がこれで最後かも知れない)そう思っていたのかもな。
---
「グォォォォ!!」
さっきまではあんなに遠くにいたオーガは、今や20メートル先の状態だ。
「とりあえず、全員で一気にかかるのは得策では無い。」
一気に行くとぐちゃぐちゃっとなるかも知れないからな。
「だからまずは俺が攻撃を仕掛ける。お前らはその後に続いてくれ。」
「分かったわ。」「おう。」「うん。」
よし……って、もう俺も仕掛けなきゃやべぇ!
その時、オーガはもう10メートル程まで迫って来ており、今少しでも躊躇すれば巨大な足で踏み潰されそうな場面だった。
「くっそぉぉぉッ!!」
俺は恐怖で震える足になんとか力を入れると、オーガの方へ力強く踏み込み、走る。
「グォォォォ!!」
オーガはもちろん、そんな俺に対して巨大な手を振りかぶり、叩き潰そうとしてくる――が、流石にそんな単純な攻撃には当たらない。
「はッ!」
俺は素早く身体を右側に倒し攻撃を避けようとする。
しかし、予想以上にオーガの手が大きく、バランスを崩してしまった。
それを見てもう片方の手で叩き潰そうとして来るオーガ。
くそ……いきなりまずい……!
しかし、そんな俺を見たみさとは、注目を自分に寄せる為に、
「はぁぁぁぁ!!」
大声でそう叫びながらオーガの方へ向かって行く。
するとそんなみさとにオーガの注目は写ったようで、俺を攻撃しようと振り上げていた手をそのまま
それはそれでまずいだろ!
さっき俺はオーガの大袈裟レベルの振りかぶりがあったから避けられた。
しかし、今回は俺に対して振りかぶっていた手をそのままみさとに振り下ろすだけの動きだ。
「みさと、避けろッ!!」
俺は必死にそう叫ぶ。
しかし、時は既に遅かったようで――
「ぐあぁ!?」
みさとはオーガの攻撃に直撃、後ろに5メートル程吹き飛ばされた。
「な、、嘘だろ……?」
俺は地面を転がるみさとを見る。
いやだ、、嫌だ!俺たちは本当にここで死ぬのか!?
「みさと!!」
「く、くそが……」
そんな光景を見てからオーガに突撃して行く事なんて出来るはずがない。
ちなつとくるみは、精神的にももう戦える感じでは無かった。
そして、唯一まだ戦える俺に再び手を振りかぶるオーガ。
くそ……やっぱりもうダメなのか……
その手を俺に向かって振り下ろした――――瞬間!
「おらッ!!」
何かが俺を押し倒した。
痛てぇ……まさかオーガのやつ、俺を蹴飛ばしやがったのか……?
しかし、今の感触的にそれは違いそうだ。
俺はゆっくりと目を開け、上に覆いかぶさっているものを見る。するとそれは――
「大丈夫か!?とうま!」
「って、エス……!?」
一週間前に知り合った冒険者パーティーのリーダー、エスタリだった。