豪邸と言っても、その形はひとつでは無い。
とにかく面積が大きい豪邸もあれば、大きくは無いが中身の装飾が凄く凝られた豪邸。
中にはものすごく建物の高さが高い豪邸もあったりするかもしれない。
さて、なんで俺がこの様な話をしているのかだが、それは今居る場所が、ものすごく異様な豪邸だからだ。
事の発端から現在までを簡単に振り返ると、魔法が使えない俺たちは、魔法を教える人はいないのかと冒険者ギルドの受け付けお姉さんに聞いたところ、「教えてくれるか定かでは無いが、心当たりはある」そう言われ、住所を教えて貰ってそこまで行き、家に入れてもらった。
そして先程も言ったように今はその家の玄関に居るのだが――内装はというと、なんとも変な感じだった。
まず、この世界の他の建物と比べて、天井がとても低い。
日本とかに古くからある平屋をイメージしたらわかりやすいだろうか。
それなのに内装は思いっきり中世ヨーロッパだから、脳がバグりそうになる。
そして当然、今のような考えをしていたのは俺だけでは無く、
「「……」」
俺たち全員はこのなんとも言えない空気に押し潰されそうになっていた。
「皆さん?どうしたんですか?早く行きましょう。」
しかし、この家の住人である黄緑色の髪の毛を持つ女の子にはなぜ俺たちが黙っていたのかが分からないようで、首を傾げるとすぐに玄関から右へ伸びる廊下を歩いて行く。
「……とりあえずついて行くか。」
「そうね……」
もしかしてこう家の内装を変と思うのは異世界転生してきた俺たちだけで、実はこういう家も普通なのだろうか?
――とりあえず、家主が歩き始めた以上それについて行く以外の選択肢は無い。
俺たちはこの世界の住人との感覚の違いを実感しながら、女の子の背中を追い掛けた。
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それから30分後、俺たちは今家の真ん中にある中庭に、横一列に並ぶ形で整列させられていた。
あれから俺たちは女の子について行くと、ひとつの部屋に入れられた。
急になんだと動揺する俺たち。
すると女の子はまるで俺たちの心を読んでいたかのように、「お腹すいてますよね、ご飯食べて下さい」そう言った。
いや、マジでビビったよ。
だって本当にお腹空いてたから。
コイツも心を読む力があるのかってな。
(後から聞くと単に俺たちがお腹を鳴らしていたからだったんだが)
それでお言葉に甘えてご飯を食べさせてもらってたって訳だ。
「はい、じゃあまずは全員利き手を前に伸ばして、手のひらを上に向けて下さい。」
「こうか?」
俺は女の子、いや、ウェーナの指示に従い右手を前に伸ばし、言われた通りにする。
(さっき名前はウェーナ・ボロスウェルだと名乗られた)
「そうです、それで手のひらに力を集めて下さい。」
「力を集める?」
それって拳を握れって事か?
しかし、そう聞くとどうやら違うかったらしく、「身体の中にあるモワモワと湧き上がってくる何かを集める」
そう言われた。
でも正直そんな「何か」なんて感じないし、集まる気もしなかった。
モワモワと湧き上がってくるのは性欲だけだぜ。
「分かんねぇ!」
「私も全くダメだ……」
どれだけ頑張ってもコツを掴めない俺は、そう投げ出すようなセリフを吐くと、ちなつもそれに乗っかってくる。
良かった、どうやらセンスが無いのは俺だけじゃないみたいだ。
(って言うか、今まで魔法なんて空想上にしか無い世界で暮らしてたんだから出来ないのは当たり前だと思う)
しかし、そんな俺たちに対して――
「やったわ……!なんか出てきたわよ!」
「えっへん!こんなの楽勝だよ!」
みさととくるみは、手のひらの上に透明な玉のような物を浮かべていた。
「お、それが魔力です。みさとさんにくるみさん、成長が凄く早いですね。」
「じゃあ今度はその状態で、魔力がメラメラと燃えるのをイメージしてみて下さい。」
ふたりが手のひらに透明な球体――魔力を出現させることが出来たのを確認したウェーナは、次にその魔力にイメージを持てと言う。
(俺たちの名前を知っているのは、ご飯を食べている時に自己紹介をしたからだ。)
「こう……かしら?」
「よいしょ!」
ふたりは言われたように目を瞑ってイメージをすると、瞬く間にその魔力に赤い色が付き、火の玉に変化した。
す、すげぇ……これが本物の魔力……!
微塵のセンスも無い俺とちなつはそのあまりにもファンタジーな光景に釘付けだ。
「おぉ、なかなかやりますね。」
そんな、驚異的なセンスを見せた2人に、ウェーナも感心していた。
2人ともマジですげぇセンスだな。
これならもう既に杖とか使えば戦闘にも取り入れられるんじゃねぇのか?
ちなみに今日ウェーナから教えてもらったんだが、杖というのは魔法を撃つ時、絶対必要という訳ではなく、魔力を簡単に様々な攻撃に変えることの出来る物なのだそうだ。
パソコンで言うところの、ショートカットキーのようなものってことだな、別に無くても良いけど、あれば便利的な。
すると、そこでウェーナに褒められて気分が良くなったくるみは、「あ、そうだ!」そう何やら意味深な言葉を呟くと、
「セレクトギャンブラー!」
自分の手の上で燃えている火の玉に向かってそう言い放った。――って、それは確か――
その瞬間――なんとくるみの手の上にあった火の玉は一瞬で3倍程の大きさになった。
って!?これはまさかあいつのユニークスキル!?
(簡単に振り返ると、くるみはセレクトギャンブラーという使った物が凄く良くなるか悪くなるかという、まさにギャンブルなユニークスキルを持っているのだ。)
そして、今回のような場合は、ものすごく良くなる。という方だった。
いや、でも今回に限ってはものすごく悪い!!
「ど、どうしよう!?」
「と、とりあえず手の力を抜いて下さい!」
「わ、分かったよ!」
そんな出来事に流石のウェーナも冷静な訳が無く、くるみにそう焦って言葉を掛けていた。
そんなこんなで初めてのウェーナ先生による魔法の授業は終わった。
今回の結果的には、
俺→出来なかった。
みさと→出来た。
ちなつ→出来なかった。
くるみ→出来た(トラブル付き)
こんな感じだ。
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「ふぅ……良い汗かいたぜ。」
「私は違う意味で汗かいたよ……」
「ほんと、でも面白かったわね。」
「だな。」
それから俺たちは先程ご飯を食べさせてもらった部屋で休憩していた。
はぁ〜、冷たい机にほっぺた擦り付けるのきもちぇ!
すると、そこでウェーナが部屋に入って来た。
あ、そういえばそろそろ帰った方が良い時間だよな。
おそらくそれを言いに来たんだろう。
しかし、ウェーナが一言目に放った言葉は、俺の予想を遥かに上回る物だった。
「皆さん、帰る家がないんじゃないですか?」
「えと……え?」
どういうことだ?まさかコイツ、俺たちのことをバカにしてるのか?
しかし、ウェーナの表情からそのような感情は感じ取れない。
俺は黙って次の発言を待っていると――こう言った。
「良かったら、うちに住みますか?」
って、えぇ!?
ど、どういうことだ!?俺たちがこの家に住んでいいのか!?
「ま、マジで言ってるのか!?」
「はい」
「いや、信じられん。おいみさと、ユニークスキルでほんとはどう思ってるのか調べろ。」
「分かったわ――――……どうやらウェーナの言ってることは本当の様よ……」
「マジかよ!」
ってかなんでコイツはいきなりこんなこと言い出したんだ?
それから俺たちはウェーナに話を詳しく聞くと、どうやら今は本来ここに住んでいるウェーナの両親は2人とも、中央大陸というなんとも凄そうな場所にある王国の人たちに魔法を教えるために言っているらしく、色んな部屋が空いているから、それならという事らしい。
いや、それでもなんで俺たちみたいなよく分からん集団を家に泊めるなんて考えに至るのかは謎だった。……まぁその間は今日みたいに魔法を教えてくれるし、授業料も取らないらしいから、もちろん「住まして下さい!」って土下座かましたんだがな。
いやマジ、お金取らないってどんだけ金持ちなんだよ。これだけ家がでかいのも納得だな。
こうして俺たちは、突然のウェーナの発言により、家に住まわして貰うことになったのだった。