俺の名前は
今年で28になる超ナイスガイなガリガリエロゲーマーだ。
といっても、そんな骨みたいにガリガリな訳じゃ無いぜ?一般的に見たら痩せてるねーくらいだ。
そんな俺の前には今、3人の美少女が地面に仰向けの形で倒れている。
3人とも顔も服装も髪型も違うが、それぞれ誰が見ても可愛いと思うレベルの容姿だ。
まだそれだけだと俺はどうとも思わない。
(3人とも俺の美貌に驚いて気絶でもしちまったんだな……)と、自己解釈出来るしな。
しかし、なんと今いる場所は、周りに建物は一切無い、開けた草原のど真ん中。
この状況、正常に頭の中で処理出来るやつは居るのだろうか?
――――――
さっきまで俺は、新作エロゲーである「幼なじみぷれみあむプラス」を発売日当日の朝一番で買う為に、近くの18禁ショップへ向かっていた。
店へは少し距離があったが、引きこもりでかつニートな俺は車はもちろん自転車も持っていなかった為、仕方なく歩きでだ。
正直なところネット予約で済ませたかったが、それだと朝一番でプレイ、最速攻略が出来ないし、たまには運動も必要だからな。
それで俺は自信満々に家から飛び出した訳だが――頭の中の妄想とは違い、俺の身体は走り始めて5分で悲鳴を上げた。
よく考えたら当たり前だ。まずここ数年間で家の中での階段上り下りでしか身体を動かして無かった訳だから、いきなり全力疾走をしたら疲れるのは当然。
だから俺は少し進んだところで、自分の歩いている道から道路を挟んだ向こう側にある小さな公園で休むことにした。
ゲームが楽しみ過ぎて店の開店時間より相当早く家を出たから、まだ時間には余裕があったしな。
公園の真ん前にある横断歩道の前で信号待ちをする俺。
(信号を待つのなんていつぶりだろうな)
そんなことを考えながらぼーっと信号が青に変わるのを待っていると、そこで突然、右足に激痛が走った。
いきなりの痛みに焦って右側をむく俺。するとそこには5歳くらいの子供が居て、補助輪付きの自転車で俺の足をひいていた。
「なにすんっ!?」
俺はすぐガキに文句を言おうとしたのだが、言葉を言い終わる前に、足を一本やられた為にバランスを崩し、そのまま頭から地面に着く形でアスファルトに倒れた。
そこで意識を失っている。
…………それで目が覚めたら冒頭の状況って訳だ。
「まじ訳わかんねぇんだが……」
後ろに両手を付き、空を見上げながらそう呟く。
空は雲が気持ちよさそうにぷかぷかと浮かんでおり、小鳥たちがチュンチュンと可愛い鳴き声を発しながら飛んでいた。
するとそこで、
「う……うぅ……」
目の前で倒れていた3人の美少女の中で、一番清楚系の黒髪ロングの子が、そううめき声を出しながら身体を起こした。
良かった。死んではいないみたいだ。
俺はこの場所で最初にこの美少女たちを見つけた時、生きているかを確認する為に触ろうか迷ったのだが、もしそれがバレたりしたらセクハラで訴えられるかもしれない。
だから俺はそれが怖くて、生きているかどうかも怪しい状態で放置していたのだ。
するとひとりが目覚めた事に続いて残りの2人(青色のツインテール女子&ピンク髪ショートのロリ)も同じように意識を取り戻し、身体を起こした。
とりあえず、コイツらならなんで俺がこんなところにいるのか知っているかも知れない。
だから俺は、
「な、なぁ……お、おはよぉ……」
恐る恐るそう声を掛ける。
声が小さいだって?仕方ないだろ親以外の女の子と話すのは高校生の時ぶりなんだから!
すると3人の女の子たちは、俺の言葉が聞こえなかったのか――
「ここどこよ!?」
「あれ?白いお馬さんは?」
「私、なんでこんなところで寝てたんだ?」
3人とも、それぞれ俺のセリフガン無視で喋り始めた。
く、くぅ……画面内のキャラに話しかけて無視られるのとは訳が違ぇ……目の前にいる女の子に無視されるのってこんなに傷つくのかよ……
母親には愛想尽かされてほぼ毎回無視されてたから耐性はある程度ついていると思っていたが……全然だったぜ。
すると、そうやってひとりで悲しんでた間に向こうの3人は何やら話をしていたらしく、
「――で、ガリガリ。あなた?私たちをこんな場所に連れてきたのは。」
黒髪ロングの女の子が、不機嫌そうに腕を組みながら、俺の方を向いてそう言って来た。
な……!が、ガリガリとはなんだよガリガリとは!
「俺の名前はガリガリじゃねぇよ!冬馬って名前があんだ!」
「なんでも良いけど、もう一度聞くわ。あなたが私たちをこんなよく分からない森の中に連れ込んだの?」
はぁ……なんでも良くねぇだろ。
とにかく、今この3人の軽い話し合いの結果、俺がこの草原まで全員連れてきたって事になってるっぽいな。
普通に考えてそんなのおかしすぎるが、確かに最初に起きていたのはこの俺だけだし、この中だとまだ一番怪しいんだろうな。
「――違うよ。俺もお前らと一緒で、気がついたらここに居た。」
だからそう、落ち着いて自分も君たちと同じだということを伝えた。
すると黒髪ロングの子は、
「じゃあなに?私たちは魔法か何かでここに集められたってこと?」
バカバカしそうにファンタジーな返しをしてくる。
だが、俺はそれに対して、
「多分そうだろうな。」
やけくそ気味にそう返した。だってそれ以外に思いつくことが無かったからだ。
するとそこで、
「な、なあ……」
俺と黒髪ロングの子の会話に入ってくるように、青髪ツインテールの男っぽい口調の女の子が、
「お前らってここに来るまでの直前に何があったか覚えてるか……?」
何かに気付いたように恐る恐るそう聞いてきた。
「え?何があったかって――」
そのセリフを聞いた俺たちは1人づつ直前の出来事を話す。
そこで俺も気がついた。
なんとここに居る全員、
じゃあ俺の死因子供に自転車で引かれて死亡ってことか?
ちょっと待ってくれよ……
「――じゃあ、ここに居る全員さっき死んで、この世界に転生でもしたって言うこと……?」
「意味分かんな過ぎるけど……」
「そうみたい、だな……」
「本当にどうなってんだよ……」
こうして俺の、いや俺たちの新たな人生が始まったのだった。
---
「とりあえず、どこか建物のある場所に行った方が良くないか?」
正直なところ、まだこの世界がさっきまでいた世界なのか、それとも黒髪ロングの子が言った通り違う世界なのかは分からないが、どっちにしろこのままこの場所に居るのが一番良くないだろう。
俺は訳の分からん出来事に処理しきれていない頭をガシガシと掻きながら、美少女三人組にそう言った。
はぁ……本当なら今頃俺は18禁ショップに入って念願の新作エロゲを購入しているはずなのに……
(だが、こうして可愛い女の子たちと一緒に変な草原に飛ばされたからには、俺がいい所を見せなければ……!)
こう見えて切り替えが早い俺は、自分にそう言い聞かせると、後ろに着けていた手を地面から離し、タッとカッコよく立ち上がった――瞬間、
ピローン!!
携帯の通知音のような音と共に、俺の目の前に、ある文章が表示される。
俺はいきなり現れたそれを見て、驚いて尻もちをついた。
って!なんなんだよいきなり!せっかくカッコよく決めようとしたのに、これじゃ立ち上がろうとしたけどまだ早かった赤ちゃんと変わんないって!
「はぁ……」
俺は地面に勢いよく倒れた為に痛むおしりをスリスリと労わっていると、
「なに?この文章?」
「なんだ?私の前にも出てきたが。」
「私も私も!」
さっきのピーロンと言う音で俺とは反対に立ち上がっていた美少女三人組が、各自自分の目の前に現れているのであろう文章を見ながら話し始めた。
そして、その3人それぞれに現れたであろう文章は、俺の目の前にも同じように現れていた。
(なんだ……?)
俺は再び立ち上がると、先程からずっと俺の目線の高さで表示されている文章に目を通す。
すると、そこにはこう書いていた。
[貴方には転生ボーナスとして、ユニークスキル[ボディタッチ]が授与されました。]
どういうことだこれ……?
俺が読み終わると同時に、その文章はまるで先程から無かったかのように消えた。
いきなりよく分からん固有名詞であろう物が出てきたから理解出来た訳では無いが、授与って書いていたからおそらく何かが貰えたということは間違いないと思う。
「なぁ、なんて書いてた?」
「転生ボーナスが何とかって……」
「私もだ。」
「私も!」
この文章で俺は改めて認識した。
どうやら俺たち、本当に転生したらしい。
---
「とりあえず、どこか建物のある場所に移動しましょうか。」
「それ、さっき俺が言ったセリ――」
「そうだな。」「うんうん!」
はぁ、まぁ良いだろう。
「で、移動するってどっちに行くんだ?」
俺は黒髪ロングにそう聞く。(呼び方が雑になって来ているが気にするな、きっとあとで自己紹介があるだろうからそこでちゃんとした名前を聞く事にするか)
今、俺たちの前には両サイドへと長く伸びる一本の砂利道があった。
この存在は凄くデカい、整備のされてない道だとしても、それの通りに歩いていけば、どこかにはたどり着くだろうからな。
だが、今黒髪ロングに聞いているようにここからが問題だ。
そう、それはどっちに行くのか。
ま、正直なところこっちが正解でこっちが間違いなんて俺にも分からないんだがな。
すると、その2択を迫られた黒髪ロングは、
「んー……」
腕を組んで少々迷った後、
「じゃあこっち!!」
俺たちから見て右の方を指さした。
今何を考えてあっちにしようと思ったんだか――なんて、どっちに行くか聞いたやつが言えるような事じゃないか――よし……!
俺は黒髪ロングの指さす方に軽く走ると、
「じゃあお前ら!この俺が先頭で歩くから着いてこい!」
両手を腰に当て、元気よくそう叫んだ。
こういうのは元気よくいかねぇとな!
正直なところ、転生ボーナス辺りからテンションの高い俺である。
だってずっと引きこもってエロゲばっかやってた毎日からおさらば!美少女と違う世界に飛んできたんだぜ?
そりゃテンション上がるだろうよ!
しかし、そうなっているのは俺だけらしい。
他3人は俺のことをまるで可哀想な生物を見ているかのような眼差しで見ながらトコトコと歩いてきた。
全くテンション低いなぁ!
俺はみんなで建物を探す。みたいな冒険がこれから待ち受けていると思うとワクワクが止まらんがね!
だって見てみろよこのどこまでも広がる――
俺はこれから進む砂利道の方に視線をやる。
「広大な……大、地……!?」
そこで完全に見てしまった。
「どうしたのよ――ッ!?」
「う、嘘――」
「これって……!?」
「ウォォォォォッ!!」
砂利道の向こうで、俺たちを見つけた巨大なモンスターを。
---
「や、ヤバい!とりあえず走れッ!!」
完全に向こうにいる角の生えた巨人のようなモンスターと目が合ってしまった俺は、さっきまでの余裕はどこかに飛んでいき、がむしゃらに進もうとしていた反対側の砂利道を走る。
っていうかなんなんだよアイツ!?あんなのアニメや漫画じゃないと見たこと無いんだが!?
俺は走りながら振り返ってその存在を再び目で確認しようとするが、その瞬間――
「やばいやばい!!」
なんとさっきまで後ろに居た三人組が、俺のことを追い抜いたのだ。
そこで気付いた。というか元から分かってはいたのだが、
自分はものすごく足が遅いという事を。
当然だ。なにしろ俺は何年間もまともな運動をしていなかったのだから上手く走れないのは当たり前。
そしてそれは、今この状況では完全に命取りだった。
「ウォォォォォッ!!」
さっきは遠くでやまびこのように聞こえていたモンスターの叫び声が、今度はすぐ近くで発せられているように聞こえた。
(これは本当にヤバいやつ……!)
「うわぁぁぁぁ!?!?」
俺は必死にそう叫びながらがむしゃらに走った。
途中で直ぐに体力が底を尽きかけたがそれでも走り続けた。
そこで止まれば死ぬからだ。
すると、ある場所を超えた途端、追いかけて来ていたモンスターはピタリと追いかけて来るのを止めた。
「はぁ……はぁ……」
俺は両手を膝につくと、必死に身体の中へ酸素を取り込む。
疲労が一気に押し寄せてきて、今にも気を失いそうになった。
「もう追いかけては来てないみたいね……」
「ほんと、びっくりした。」
「全くだ。」
そこで、さっき俺の事を置いて行きやがった三人組が向こうから歩いてくる。
(こいつら……こんなに走っても余裕なのか……?)
「お前ら……疲れ、無いのかよ……?」
「この距離じゃ普通疲れないわよ……」
先程のように哀れな物を見る目を向けてくる黒髪ロング。
どうやらおかしいのは俺の体力らしい。――ま、とりあえずこの話題は置いておく事にして――
「ま、まぁそのことは良いじゃねぇか。それよりも!俺のこと置いていくなよな!」
「しょうがないでしょ?いきなりあんな化け物が出てくるんだから。」
「まぁそれはそうだけどよ……」
このことで俺は再度、今までいた世界とは別の世界に居るということを認識したのだった。
---
「よし、じゃあとりあえず自己紹介でもするか。」
「――そうね」「うん、そうだね」「だな。」
あの後、少し休んでから再び建物を探し始めた俺たちは、この時間を利用して1人づつ自己紹介をする事にした。
「じゃあまず私から、私の名前は
そう言いながら艶のある黒髪を手で触ったのは、俺がさっきからずっと黒髪ロングと呼んでいた女の子だ。
なるほど……服装は何処かの学校の制服っぽかったから学生だとは思っていたが、やっぱり学生には見えんな。
お姉さんって呼びたくなるぜ。
「じゃあ次は私!私は
続いてそう元気に挨拶したピンク髪ショートの女の子は――って!?このガキ23歳なのかよ!?てっきり小中学生だと思ってたんだが――
それに職業ギャンブラーって……こりゃなかなか癖のあるやつだな。
「次は私か、私の名前は
最後に拳を突き上げながらそう言った青髪ツインテールの彼女は、今のような男っぽい口調が特徴的だった。
なるほど、コイツは元らしいがアイドルなのか、どおりで髪色が普通じゃないわけだぜ、見た目ももちろん可愛いしな。――
と、以上の3人が俺と一緒に転生してきた人物らしい。
よし、じゃあ最後に俺も自己紹介するかね。
「じゃあ最後に、俺は
ま、こんな感じかね。
「それただのヒキニートじゃないのかしら?」
「それに、ナイスなガイでは無いと思うぜ……」
「な!?失礼なやつだな!」
コイツら、礼儀というものは無いのか?ここはお世辞でも「よっ!トウマ君ナイスガイ!」と言うところだろうが!
全く……
こうして、ざっくりとはしているが自己紹介が終わった。
---
「――ちなみによ、お前らはさっき転生ボーナスかなんかで手に入れたユニークスキル、どんな内容だった?」
自己紹介からしばらくして、不意にそんな疑問が浮かんできた俺は、3人にそう質問する。
と言っても、実はあの文章が表示された時、ユニークスキルの名前を読み終わったのと同時に、そのスキルの能力が自然と頭の中に入ってきていたんだ。
だから他3人も俺と同じように能力の内容を把握しているのか気になってな。
まぁ単純にどんなユニークスキルを手に入れたのか気になるってのもあるが。
だってこういうのゲームやアニメっぽくて気になるし、ワクワクするじゃん?
「私は[ココロ・ビジョン]って名前のユニークスキルだったわ。能力は、名前の通り人の心を読むことが出来るってことみたいね。」
腕を組みながらそう言うみさと。
なるほど……やっぱりコイツも同じように能力を把握してるのか――ってことは分かったが、人の心を読むことが出来る。か、くそ、これじゃ卑猥なこと考えてたらバレちまうな。
「これじゃ卑猥なこと考えてたらバレちまうなって思ったわね?」
「マジかよ!」
「スゴい!当たってたんだ!」
こりゃ本物らしいな。
「私は[セレクトギャンブラー]って名前のユニークスキルだったよ。何かにこれを使うと凄く良くなるか、凄く悪くなるって能力らしい。」
「名前の通り、ギャンブルって訳ね。」
「面白いユニークスキルだな。」
続いて自身のユニークスキルを説明したくるみに食いつくみさととちなつ。
確かにみさとやちなつの言う通り、名前の通りギャンブルなこのユニークスキルは、職業がギャンブラー(自称)なくるみにはピッタリだった。
「私の手に入れたユニークスキルは、[
「正義のセリフってなんだよ。」
「正義の私が悪いお前を倒す!とかじゃないか?」
「スゴいダサいな……」
ちなつのユニークスキルが一番よく分かんなかった。
だってなんだよ正義のセリフって。
まぁさっき正義こそ全てとか言ってたちなつにはお似合いなのかもしれないが。
「じゃあ最後に俺のユニークスキルだな。」
「一体どんなユニークスキルなのかしら。」
「最後なんだから期待してるぜ?」
「うんうん!」
こ、コイツらな……まぁ良いが。
美女3人から視線が集中して気分が良くなった俺は、両手を腰に当てると――
「俺のユニークスキルは、[ボディタッチ]だッ!」
「はい、警察行ってもらって良いかしら?」
「おい!ちょっと待て!」
いや、確かにユニークスキル名こそは卑猥かもしれないが、内容は結構使えるんだぜ?
「内容はな――女性に身体を触られると周りにシールドを形成する(美女だったら効果大)だ!」
「やっぱり警察行ってもらって良いかしら?」
「なんでだよ!?だってシールドだぜ?この世界にさっきみたいなモンスターが蠢いているんだとしたら必須だろ。」
「それとこれは関係ないわよ!」
なんかまるで俺が身体を触って欲しい変態みたいになってるじゃないか!全然そんなんじゃないんだからな?
するとそこで、
「――その話し合いは後からするとして、見えてきたぞ。」
「ほんとだ!」
言い合いをしていた俺とみさとに、ちなつが割り込むようにしてそう言う。
「見えてきた?」
俺はすぐに話していたみさとから視線を外し、前を見る。
すると、砂利道の向こうに中世ヨーロッパのような街並みが広がっていた。