「揺れますので、しっかり掴まってください」
「は、はい」
横乗りした私の腰に、ハル様はしっかりと片腕を回してくださっていました。それでも慣れない馬上は恐ろしく、ハル様にしがみ付くようにして寄りかかりました。
ハル様が簡単そうに片手で手綱を操ると、パッカパッカと馬が緩やかに、そして優美に足を進めました。
そのままハル様は私を
ハル様のような素敵な男性に、横抱きにされたまま馬が進む。まるで、勇敢な騎士に守られるみたい……
メリルさんではありませんが、確かに物語の姫君になったのではないかと思える夢のような心持ちです。私はいつの間にか恐怖も忘れ、ハル様の胸に身体を預けていました。
ですが街中を進むうちに、そんなふわふわした気分はすぐに吹き飛びました。
私の意識を現実へ引き戻したそれは街道を進む私達……いえ、私に突き刺さる敵意ある視線。
周囲を見れば私へ向ける彼らの目に浮かぶ
どうして?
訳も分からず刺さる殺意にも似た敵意に、怯え、委縮する私の耳にその原因が耳に入ってきました。
「あいつがエリーナ様を……」
「やっぱり魔女だな」
「エリーナ様……お可哀想に」
それは心優しいエリーナ様を殺した魔女へ向けられた殺意のある白い目だったのです。
エリーナ様が亡くなられたのは三日前の晩です。
その状況が街に噂として流れるには早すぎます。
伯爵が流布したのでしょうか?
それともガラックさんやオーロソ司祭の仕業でしょうか?
どうやら、私がエリーナ様を殺した張本人とされていたようでした。
「ちっ、魔女が」
「どうしてさっさと処刑しないんだ?」
「あの魔女が死ねばよかったのに!」
そんな罵詈雑言の数々……
そして、罵倒だけでは収まらず、石を投げ付ける者まで現れました。
ひゅっ!
風を切る音と共に害意の篭められた石が私目掛けて飛来し、ぶつかると私は思わずぎゅっと目を閉じました。
がつっ!
石が身体に当たる音……しかし、私は全く痛みを感じず、不思議に思いながら恐る恐る目を開けると――
ひゅっ!
――私を目掛けて投石が再び飛んできたところでした。
がしっ!
ですが、その石が私に当たる
「ハル様!」
きっと、先ほどの石もハル様が庇ってくださったのでしょう。
「大丈夫ですよ」
石をその身に受けておきながら、涼しい顔で私に微笑むハル様に私は唖然としてしまいました。
「あなたに降り掛かる悪意は、全て俺がこの身に引き受けましょう」
その言葉の通り、次々に私を襲う投石をハル様は事も無げに迎え撃ったのです。
「なんで魔女を守るんだ!」
「エリーナ様を害した奴なんだぞ」
「騎士なら悪人を捕らえるべきだろ」
私を庇ったせいで周囲からハル様へ非難が沸き上がりました。
「私のせいでハル様にまで……」
私はハル様にご迷惑をお掛けしてばかり。
「安心してください」
しかし、当のハル様はどこ吹く風で、何事もなかったような顔で私の耳元で囁きました。
「あなたが傷を負うのならなら、その全ての傷を俺が代わりに負いましょう」
ハル様はそれからも私を周囲の悪意から守り続けてくださったのです。
「何物もあなたを傷つける事は出来ません」
「ハル様……どうしてそこまで」
「それは、俺があなたの騎士だから。あなただけの剣であり盾だからです」
ハル様は続けて告げました。
俺は常闇の女王の傍から片時も離れる事のない