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第68話 常闇の魔女―騎士の誓い―

「ふふっ、トーナさんからはラシアの良い匂いがしますよ」


 いきなりハル様が私の髪に顔を埋め、匂いを嗅いできました。あまりの羞恥に顔が熱くなる。


「お止めください……」


 口では否定しながらも、抵抗する気持ちなどありません。ただただ嬉しいと思ってしまう自分がいます。


 嫌がりながら本心では喜ぶなんて……私は本当にいやらしい女です……


「俺があなたを守ります。これからずっと」

「それではハル様まで国を捨てる事に……」

「問題ありません。俺は元々この国の者ではありませんから」

「ですが、だからこそ国家騎士になるのは大変だったでしょう。その努力を無為にお捨てになるのですか!?」


 騎士までの道のりは想像以上に困難だったでしょうに……


「俺が騎士になったのはリュエスへの憧憬からなんです」


 それは確かに以前ハル様よりお伺いしました。


「そして、俺にとってのリュエスはあなたです」

「そんな……私は慈愛に満ちたリュエスのような美しい女性ではありません」


 リュエスは物静かで、慈悲深く、とても美しい妖精の女王だと聞き及んでおります。黒い髪と赤い瞳は同じでも、彼女と私では性格もあり方もぜんぜん違います。


「あなたがリュエスです……俺にとってのリュエスです……いや、俺にとってはリュエス以上に大切な女性ひとなんです」

「ああ、ハル様……」


 しっかり抱き締められながら耳元で甘く囁かれ、私の身体から力が抜けて完全に身を預けてしまいました。


 ずっと……ずっと、こうしていたい……


「あなたを見つける為に……あなたを救う為に……あなたの傍にいる為に俺は騎士になったのです……今ならそう確信できます」

「ハル様……私は……」


 ああ、私はやっぱりハル様が好きです……大好きです……愛しています……


「だからトーナさん……あなたと共に生きていくことを許してはもらえないでしょうか?」

「ハル様……本当に……本当に私で宜しいのですか?」


 ハル様は私を腕から解放すると、今度は私の両肩に手を置い私の赤い瞳を真っ直ぐ見据える。


 ハル様の青い瞳がとても綺麗……


「トーナさんが良いのです。俺にはあなただけなのです」

「ああ、私も……私もハル様だけです」


 私達はお互いの背に腕を回してしがみつくように抱き合い、お互いの体温を、鼓動を、息遣いを、そして想いを確かめ合いました。


「トーナさん……あなたに付いて行ってもよろしいですか?」

「はい……」


 彼の胸の中で私はこくりと頷きました。


「あなたとこれからも一緒にいさせてください」

「はい……」


 ただ頷く……


「俺はあなたの傍を決して離れません」

「はい……はい……私もハル様の傍から離れたくありません。ずっとずっとあなたと一緒にいたい」


 そして……


「これから何があっても俺がずっとトーナさんの傍にいます――」


 ――全てを敵に回しても、俺の全てを捨ててでも、必ずあなたを守ります。


 リュエスを守護した白銀しろ騎士と同じく、ハル様は騎士の誓いを立てられたのでした。


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