「ふふっ、トーナさんからはラシアの良い匂いがしますよ」
いきなりハル様が私の髪に顔を埋め、匂いを嗅いできました。あまりの羞恥に顔が熱くなる。
「お止めください……」
口では否定しながらも、抵抗する気持ちなどありません。ただただ嬉しいと思ってしまう自分がいます。
嫌がりながら本心では喜ぶなんて……私は本当にいやらしい女です……
「俺があなたを守ります。これからずっと」
「それではハル様まで国を捨てる事に……」
「問題ありません。俺は元々この国の者ではありませんから」
「ですが、だからこそ国家騎士になるのは大変だったでしょう。その努力を無為にお捨てになるのですか!?」
騎士までの道のりは想像以上に困難だったでしょうに……
「俺が騎士になったのはリュエスへの憧憬からなんです」
それは確かに以前ハル様よりお伺いしました。
「そして、俺にとってのリュエスはあなたです」
「そんな……私は慈愛に満ちたリュエスのような美しい女性ではありません」
リュエスは物静かで、慈悲深く、とても美しい妖精の女王だと聞き及んでおります。黒い髪と赤い瞳は同じでも、彼女と私では性格もあり方もぜんぜん違います。
「あなたがリュエスです……俺にとってのリュエスです……いや、俺にとってはリュエス以上に大切な
「ああ、ハル様……」
しっかり抱き締められながら耳元で甘く囁かれ、私の身体から力が抜けて完全に身を預けてしまいました。
ずっと……ずっと、こうしていたい……
「あなたを見つける為に……あなたを救う為に……あなたの傍にいる為に俺は騎士になったのです……今ならそう確信できます」
「ハル様……私は……」
ああ、私はやっぱりハル様が好きです……大好きです……愛しています……
「だからトーナさん……あなたと共に生きていくことを許してはもらえないでしょうか?」
「ハル様……本当に……本当に私で宜しいのですか?」
ハル様は私を腕から解放すると、今度は私の両肩に手を置い私の赤い瞳を真っ直ぐ見据える。
ハル様の青い瞳がとても綺麗……
「トーナさんが良いのです。俺にはあなただけなのです」
「ああ、私も……私もハル様だけです」
私達はお互いの背に腕を回してしがみつくように抱き合い、お互いの体温を、鼓動を、息遣いを、そして想いを確かめ合いました。
「トーナさん……あなたに付いて行ってもよろしいですか?」
「はい……」
彼の胸の中で私はこくりと頷きました。
「あなたとこれからも一緒にいさせてください」
「はい……」
ただ頷く……
「俺はあなたの傍を決して離れません」
「はい……はい……私もハル様の傍から離れたくありません。ずっとずっとあなたと一緒にいたい」
そして……
「これから何があっても俺がずっとトーナさんの傍にいます――」
――全てを敵に回しても、俺の全てを捨ててでも、必ずあなたを守ります。
リュエスを守護した