「もう、この国には住めないのですね……」
どうしてでしょう……涙が頬を伝って流れ落ちました。
「この街に、この国にとって、私は要らない存在なのですね」
この国は私を拒絶していました。だから、私も人々から距離を置き、心に壁を築いたのです。
あの森の中で……ラシアに囲まれた私の家で……誰にも頼らず、誰にも依存せず、一人で生きていける。
そう思っていたのに……
それなのに私を不要だと告げられて、どうしてこんなに胸に寂しさが押し寄せてくるのでしょう……どうしてこんなにも胸が苦しくなるのでしょう。
心さえも森の奥深く、暗闇の中に押し込めていたのに。それでも私は陽の光の下に出たい願望があったのでしょうか?
「力及ばず申し訳ありませんでした」
ハル様が済まなそうな顔で頭を下げられました。
「そんな……本当なら死罪を賜っていたところです」
伯爵の様子から、私に恩赦を与えるなど不可能としか思えません。
それなのに、ハル様は私を助け出す算段をつけてきたのです。きっと、かなりご無理をなされたのではないでしょうか?
こんな私の為に颯爽と助けの手を差し伸べるハル様は本当に素敵なお方です。その
「ハル様にご迷惑をお掛けしてしまい何とお詫びすれば……」
そんなハル様の手を煩わせてしまいました。
直接の処刑は免れました。
ですが、国外追放……実質の死刑ですね。
死にたいなどと口にしておきながら、死への旅路となる追放を恐れるなんて……己の浅ましさに嫌気がさします。
しかし、ハル様にはみっともない姿をお見せするわけにはいきません。
「ハル様にはこれまで大変お世話になりました」
私は膝の上に両手を添えて頭を下げました。
再び、双眸から涙が溢れそうになりました。
「何のお返しも出来ず心苦しいですが……これでお別れです」
ああ……ハル様と別れなければならないと思うだけで、胸がこれほど痛く苦しくなるなんて……私はこの方に恋をしてしまっていたのですね。
この段になってやっと理解するなんて……私はハル様が好き……この方を愛してしまっている。
でも、今更それに気がついても遅いのです。
私は追放され、この国を去るにですから……
ところが――
「俺がついて行きます」
「ハル様!?」
――不衛生な牢の中で汚れるのも厭わずハル様は膝をつき、膝の上でぎゅっと握っていた私の両手を取ってご自分の手で包み込みました。
「そ、その、流刑の者を護送されるのは、さすがに国家騎士のお役目から外れるのではありませんか?」
これまでずっと良くしていただいたのです。
さすがにこれ以上ハル様に甘えられません。
「勘違いをされていませんか?」
「えっ?」
ところが私の手を握るハル様の手に力が篭り、私を写す青い瞳は涼やかさから一転して熱を帯びていました。
「俺はトーナさんについていきます……ずっと……ずっとあなたの傍にいます」
「えっ……それは……あっ、い、いけません!」
いきなりハル様は私を強引に引き起こすと、腰に腕を回してしっかりと抱き締めたのです。
「お、お離しください……その、ずっと牢に居てきっと臭いますから……」
身を捩って抵抗しましたが、ハル様の腕にがっちりと拘束されて全くの無意味でした。
それに、すっぽり彼の胸に収まると喜びが湧いてきて……彼の腕に抱かれていると安心し、胸に寄り掛かりたい欲求が勝ってしまうのです。
私は本当に浅ましい女です。