「……酷い顔」
まだ半分眠っている頭に手を当てながら、起き上がって鏡の前に立つ……そこに映る赤い瞳の下に、隈が盛大にできています。ほんとうに酷い顔です。思わずため息が漏れ出てしまいました。
盛大な寝不足です。
全てはハル様のせいです。
あれから三日、寝ても覚めてもハル様の事ばかり考えてしまっています。昨夜などは悶々としてあまり眠れませんでした。
原因はもちろんハル様の告白なのですが、昨日ハル様が急に家を訪ねてこられたのも要因の一つになっています。
非番に花束を抱えて来られたハル様は、ずっと私の手を握って愛を囁いてきたのです。
ハル様みたいな優しい美青年に告白されて、嬉しくない筈もありません。だから、私の忌むべき赤い瞳は、きっと私の意志に反して潤んでしまっているでしょう。
「
ですが、私の理性がハル様の想いを素直に受け入れられませんでした。
「俺の言葉は信じられませんか?」
「信じるも何も……私達はまだ出会って数日なのですよ?」
どうしても、私は誰かを信じる事ができません。
「しかも私は街の爪弾き者。いきなりそんな事を仰られても……」
どうしても、私は自分に自信を持つ事ができません。
「トーナさんは他人から虐げられるのに慣れすぎてしまって、他者との間に壁を作ってしまっているのですね」
「それは……だって、私はこんな容姿ですから」
真っ直ぐ見詰めてくるハル様の澄んだ青い瞳に居た
「こんなとは?」
「その……ハル様はとても見目が良く、私みたいな女では釣り合いが取れません」
ハル様は国家騎士であり、美青年であり、私みたいな女でも真摯に向き合ってくださるほど優しい方です。
「どう釣り合いが取れないのか理解できませんが?」
「それは……私はハル様の様に容姿に優れているわけでは……」
「あなたは誰よりも素敵な女性です」
「そんな……私なんて……」
私は自分を信じられず、自分を卑下してしまいます。
「私なんて、ではありません」
ちらりと横目でハル様を見れば、真摯な青い瞳が私を捉えて離しません。
「あなたは私の知るどの女性よりも美しく、苦難の中にあっても
ハル様の言葉を信じたい。
でも……でも……
「トーナさんは自分に自信がないのですね――」
突然、ハル様の手が私の頬に伸び、背けた私の顔を自分の方へと強引に向けました。
私の嫌いな瞳に飛び込んできたのはハル様の綺麗な瞳。
真正面から見据えられて私は息を飲みました。
「――それはあなたの髪と瞳の色のせいですか?」
「……」
その指摘は正しい……
だから私は何も答えられず黙るしかなかったのです。
ですが――
「その夜の空の如く全てを吸い込みそうな黒い髪は神秘的で、
「あなたの瞳は血よりも鮮やかな赤色で、ルビーよりも貴く美しい」
――などなど、それからのハル様は事あるごとに私の容姿、それも劣等感を抱いている髪と目を褒めてきました。
それはとても真っ直ぐに、何の
「ハ、ハル様、も、もう、それくらいで……」
嬉しくはあり、胸が喜びではちきれそうです。
それでも恥ずかしさの方が上回り声だけではなく、私は消え入りそうになりました。
「トーナさん自身にも分かって欲しいのです――」
ハル様はそんな私を見て微笑んで仰いました。
「――あなたの黒い髪も赤い瞳も本当に綺麗なのだと」
「あ、あぅ……」
私のあたふたとした様子に、ハル様はくすりと笑ってから私を解放してくださいました。
「今日はこれくらいにしておきます」
しかし、立ち上がったハル様は追い打ちを忘れていませんでした。
「ですが覚悟しておいてください。あなたが自分に自信が持てるまで、俺の言葉が届くまで、ずっとずっとあなたを褒め続けます。好きだと言い続けます」
そう言い残してハル様はファマスへと帰られたのでした。