「トーナ殿!」
「な、何を!?」
私が自分の腕に刃物を当てると、二人が目を大きく見開いて驚嘆の声を上げました。微かな逡巡も見せず私は刃を軽く真っ直ぐに引きました。
「「――!?」」
二人はあまりに突拍子もない行動に唖然としてしまいましたが、そんなに大袈裟な事でもないのです。この刃は鋭く細いので、痛みは然程ないのですから。
ツーーーッ
腕に赤い線を描くが如く、
赤い液体が盛り上がり、それが真っ赤な雫を形成する。
ぽとっ……
その血の球体が私の腕を離れ、床へと落ちてじわっと赤黒い染みとなりました。
「――ッ!?」
血をあまり見慣れていなかったのでしょう。
言葉を失ったソアラさんの顔が真っ青になってしまいました
「どうしてそんな真似を!?」
ハル様は騎士ですから流血沙汰には慣れている筈です。それでも、私に向ける顔は珍しく厳しいものでした。とてもお怒りのご様子です。
きっと私の身を案じてくださったのでしょう。ですが、どうしても私はこうしないといけないのです。
「ご心配をお掛けして申し訳ありません。ですが、私は大丈夫ですので」
私は心配をお掛けしたハル様に謝罪をする。それから続けてハル様が運んでくれた甕からお湯を
「自分の腕を切るなんて……」
顔色を失ったソアラさんの目は怯えと動揺に揺らいでいました。
「傷口は治療の前に洗って綺麗にする必要があります。特にメリルさんは魔獣に咬まれていますので、傷口はかなり不潔ですから尚の事です」
「それは……そうですが……でも……」
ソアラさんのこの反応から見て、おそらく一度メリルさんの咬み傷を洗ったのでしょう。そして、それに使用したのはただの水。
その結果、メリルさんは……今から私はその状況を再現するのです。
「なっ、駄目ぇ!!」
手にした柄杓の合を腕の傷口へ持っていくと、ソアラさんが小さな悲鳴を上げました。
しかし、彼女の止める声にも構わず、私は手にした湯を注いだ柄杓を傾けたのでした。
ぴちゃぴちゃ……
傾けられた柄杓からお湯が溢れ落ち、ただのお湯が傷口を侵すと――
「――くぅっ、うっ!」
その瞬間、傷口を凄まじ力で締め付けられたような、あまりの激しい痛みに呻き声が思わず口をついて出ました。
しばらくジンジンと続いたので、痛みに耐える為に歯をグッと食い縛り、目をぎゅっと瞑って顔を
「このように普通の水やお湯で傷口を洗えば、とても耐えられない強い痛みを感じます」
だいぶん痛みが引いたので、私は説明を再開しました。
ソアラさんは少し怯えながら、こくこく頷いています。
涙目で震えている彼女の様子から、やはり一度メリルさんの怪我を洗ったのでしょう。
「メリルさんの傷口を水で洗われたのではありませんか?」
「うっ、は、はい……」
ちょっと切っただけの私の傷口でもこれほど強い痛みを感じたのです。ヴェロムに咬まれた大傷を真水で洗ったならばきっと……その痛みを想像しただけで身震いがでそうです。
「メリルさんは相当に痛がっておられたでしょう?」
尋ねればソアラさんは黙って頷かれました。
その時の凄惨な状況を思い出されたのでしょう、彼女の顔が悲痛に歪みました。ですが、私はそれを深く追求はせず作り直した生理食塩水を柄杓で掬いました。
「ですが、この生理食塩水なら……」
「まさか、それを傷口に掛けるのですか!?」
私が次に何をするのかに思い至ったのでしょう。
驚愕して上げたソアラさんの叫び声の中――
ザバッ……
――しかし、私はまったく