「我々騎士の世界でも、信用と信頼の置けない戦友に命は預けられませんからね」
私の話にハル様は得心がいったと頷かれました。きっと、この方は騎士団の中で信用と信頼を築きあげていらっしゃるのでしょう。
信用とは一朝一夕に築けるものではありません。ですので、日頃から関係の構築が如何に大切なのか分かります。
今頃になって自分の愚かさに気付き、情けなくて私の視線は自然と床へ落ちてしまいました。
「街でのトーナ殿に向けられる悪感情は一方的でした。信用を得られなかったのは決してあなただけの責任とは思えません」
そんな私をハル様が擁護され慰めてくださいます。ハル様の優しさに、私の重く沈んだ心が急に羽根のように軽くなりました。
「信用や信頼を築くにはお互いの歩み寄りが必要です」
「ハル様……ありがとうございます」
私を無条件で信じてくださるハル様に自然と感謝の言葉が出ました。
ハル様はどうして私をこんなにも甘やかしてくださるのでしょう?
まだ出会って半日も経っていないのに……こんなにもハル様の言葉に浮足立つ私は、どっぷりと彼に染められてしまっていないでしょうか。
「そう言っていただけると、自分の不甲斐なさも多少は救われます」
「エリーナ様の事が歯痒いのですか?」
なぜハル様には私の気持ちが見透かされてしまうのでしょう?
「はい……私がもっと街で信用と信頼を築けていれば、伯爵も私の話に耳を傾けてくださったかもしれないのです」
そうすれば、エリーナ様をお助けできたかもしれません。
それがとても悔やまれるのです。
「ガラック薬方店の薬では治療は難しいと?」
「伯爵は忌み嫌う私にまで
実際にエリーナ様の容態を確認しなければはっきりとは分かりません。ですが、胆薬は逆効果になる可能性が高いと思われます。
「ですが、伯爵がガラックさんの言を取り上げられた以上は私にできる事はもうないのです」
「仕方がありません。選択したのは伯爵自身なのですから」
私にはエリーナ様のご快癒を祈る他に術はありません。
悩んでも詮無きことです。
いつまでも玄関先でこうしていても仕方がありません。
「では、そろそろ帰りましょうか」
「はい……ですが、そのハル様……私は一人で帰れますので」
しかし、ハル様は一向に私の鞄を手放そうとはしてくれません。
仕方ありませんのでハル様のエスコートを受ける事にしました。
「はぁ……それでは申し訳ありませんが、家まで宜しくお願いいたします」
「お任せください」
私が諦めのため息とともに軽く頭を下げると、ハル様が空いている手を差し出してきました。
これは手を繋がないといけない流れなんでしょうか?
また押し問答しても時間の無駄のようです。
私がその手を取って領主館を後にしようとすると――
「もし、お待ち下さい!」
私達の背後から制止の声が上がったのでした。