「この度はトーナ殿に不愉快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」
私は付き添いを断ろうとしたのですが、それに先んじてハル様が謝罪の言葉で遮りました。
「無理を言って俺があなたをお連れしたのが原因なのです。せめて最後まで送らせてください」
「ですが、元々はバロッソ伯爵の依頼です。ハル様には何の責もありません」
「いや、依頼の内容は解毒薬を入手する事でした。だから俺がきちんと説明すればよかったのです」
いつまでも玄関先で押し問答しているわけにはいはいきません。
しかし、ハル様はあまりに頑なで、譲るつもりがなさそうです。
「それで果たして伯爵が納得したかどうか……」
「確かに最初からトーナ殿を魔女呼ばわりでしたから……まあ、それは私もなのですが」
私と最初に出会った時の事を思い出して、ハル様は苦笑いされました。
「いいえ、ハル様には伯爵と違い悪意がありませんでした。それに私の言葉にも真剣に耳を傾けてもくださいましたし」
この街に来てから私の名前をまともに呼んでくださったのはハル様だけです。ハル様だけがきちんと私と向き合ってくれたのです。
「トーナ殿の説明はとても説得力がありましたから――」
そう言っていただけるのはハル様くらいのものです。
「――それでも塩の水や炭は我々素人には少し刺激が強かったかもしれませんね」
私に友好的なハル様でもそう思われるのですね。それなら幾ら説明しても、伯爵に私の言葉が届かなかったのは無理からぬ事だったのかもしれません。
「そう……かもしれません。治癒師と患者の間に信頼関係がなければ、どれほど説明を尽くしても納得してはいただけないでしょう。私の説明の仕方も悪かったのかもしれません」
周囲が私に魔女と偏見を抱いているように、私にも伯爵に対して最初から理解してもらえないと諦めた気持ちがあったのではないでしょうか?
いえ、それ以前から私は患者に……街の人達に歩み寄る努力を放棄していたのかもしれません。
常々お
それなのに、私は……
「しかし、伯爵はご自分でトーナ殿の薬を求められたのです。最初から話を聞こうとしない態度はいただけません」
「元々は私から解毒薬を入手できるのだと目算しておいでだったのでしょう。私の施術を必要とするなど夢にも思わなかったのではありませんか?」
薬だけならまだしも、魔女と蔑視していた私が娘に近寄るのに対して抵抗を感じたのでしょう。
「ご自身の娘の命が掛かっていると言うのに……」
「だからでしょう」
大切な娘だからこそ魔女と疑う私を信じられず、治療を任せられないのではないでしょうか。
「初めて会った、しかも悪い噂がある人物をいきなり信じられるものでしょうか?」
「それは……そうですね。確かに難しい」
「ましてや自分の選択で大切なものを失うかもしれないと思えば尚更です」
信用できない相手に命を預けられる筈もありません。
「どうやら私は患者との信頼関係を軽視していたようです」
こうしてハル様とお話しをしていると自分の至らなさが見えてきます。
ああ、お祖母様……私はあなたの教えをまだまだ理解していなかったようです。