「もうよい!」
伯爵が怒気を
「真面目にやるつもりがないのなら出て行け!」
いたって真剣に説明をしていたのですが、伯爵に私の言葉は届かなかったようです。
「私が提示した治療法は特殊なものではありません。どなたか医師を招聘されてお尋ねくださればお分かりいただけます」
「弁明はもういい!」
伯爵は声を荒げて出て行けと扉を指し示しました。そして、もうこれ以上は話すつもりはないとばかりにそっぽを向いてしまわれました。
「ふん、小娘がしゃしゃり出てくるからだ」
「時代遅れの
この顛末にガラックさんとグェンさんが勝ち誇り、オーロソ司祭は相変わらず
――ああ、いつもそう……
私の言葉に誰も耳を傾けようとはしません。
どれほど私が言葉を重ねても、感情が理性の目と耳を塞ぎ、真実を見極める為の思考を止めてしまうのです。
人とはかくも愚かな生き物なのでしょうか。
この街で私は魔女と謂れのない中傷を受けています。
やはり伯爵も同じ感情を私に抱いているようでした。
そして、娘を愛し救いたいと願っている筈なのに、伯爵はその感情を優先して理や利を退けてしまった。
娘の命が掛かっている非常事態であっても……
「伯爵……どうか私の言葉に少しだけでも耳を傾けてください」
最後の抵抗を試みてみました。しかし、幾ら声を掛けても伯爵は私に顔を向けようともしません。
――ああ、やはりそう……
お
ですが、まったく話を聞こうとしない者とどうやって信頼関係を築けと言うのでしょう?
依頼の話を聞いた時から予想はしていました。
だから私はこの街へ来たくはなかったのです。
救える患者が近くにいるのに、私は手を出せないのです。何とも歯痒く、自分の無力さを痛感せざるを得ません。悔しさと悲しみと落胆に、自然と私の視線は床へと落ちていました。
「はぁ……」
そして、私の口からは諦めの吐息が、そんな負の感情とないまぜになって吐き出されていく。ですが、そうやって感情を殺せば少しだけ気持ちが楽になりました。
この方々にとって私は薬師ではなく魔女。
魔女の言葉はきっと誰の心にも届かない。
そんな思いに寒々としてしまった私の胸中に、
あの小さな
もう帰りましょう……お
だから、私は伯爵の説得を諦め薬を片付けようとしました。